モデルルームのと現物(実際のお部屋)の印象が著しく違うと感じることもあるでしょう。または、内覧会での指摘事項の修正に納得できない場合も考えられます。それらの場合、契約解除できるのでしょうか。契約通りに完成したはずのマンションが、思っていた物と大きく違った場合に、「契約の目的物とは異なる」といって契約を解除できるのでしょうか。
★結論は「非常に難しい」です。
お部屋に納得できない場合は契約解除可能?
この判断にはとても難しいところがあります。例えば極端に天井の高さが違う、面積が違う、間取りが間違っているなどの誰が見ても明らかな間違いがあれば、約束をした契約内容と違うのですから「契約違反による解除」が可能です。しかし実際に問題になるのは、上記したような極端な例ではなく、クロスの張り具合が悪いとか、仕上げが雑だとか、色味が想像していたよりも違うというレベルが多いのが現実です。
私も過去に関わった物件で、赤外線レーザーをお持ちになられ、一見すると見えないサッシの取っ手、扉のドアノブ等の傷を指摘され、引き渡しを拒んだお客様がいらっしゃいましたが、結論的には契約解除にはならなかったです。
手付金を放棄すれば契約解除はできる
内覧会などで「これは思っていた仕上げと異なる」と考えた場合でも、デベロッパーがまだ履行に着手していなければ、買主は「手付解除」することが可能です。すなわち買主はいつ何時(履行の着手まで)、どんな理由であれ、手付金を放棄すれば契約を解除することができるのです。しかし、デペロッパーが買主の求めに応じてこれらの仕上げ不良について手直しをするなど、履行の着手があったと考えられる場合には、もはや手付による解除はできません。手付金を放棄しても解約解除は出来ないのです。
さらにデベロッパーが不良部分を完全に直し、引き渡そうとしているのにも関わらず、買主が引き渡しを受けるのを拒んで代金の支払いをしなければ、今度は買主の契約違反とされてしまう可能性があります。買主の契約違反によって売主が契約を解除する場合、契約書で違約金が定められていればこれに従わなければなりません。違約金は多くの新築分譲マンションでは売買代金の20%が相場となっています。
手付金放棄による解除について
売買契約のなかで、手付金(解約手付金)の放棄による解除が規定されていれば、相手が履行に着手しないかぎり、なんらの理由なく解除することができます。支払い済みの手付金を放棄すれば、いつでも契約解除できるのです。そして、宅建業者が自ら売主となる場合、宅地建物取引業法によって規制されることになり、手付金の金額は売買代金の10分の2を超えてはいけないことになっています。また、どのように手付金を定めたとしても、この手付金は解約手付金となり、手付解除が可能です。
共用部に納得できない場合は契約解除可能?
新築分譲マンションを購入する際に、自分の部屋に関することは詳しく聞いたり調べたりしますが、本当に重要なのは建物の構造部分であるコンクリートや鉄筋、鉄骨、基礎などの共用部分になります。もしこれらの共用部分に問題があった場合には、区分所有者全員の持ち物なので、本来管理組合で対応するのが正しい方法です。ただマンション生活が短い人のなかには管理組合の認識が低いために「面倒なことには巻き込まれたくない」という方も多く、新築時の共用部分の問題については、管理組合では対応が難しいのが現状です。この場合、第三者の建築士に入ってもらうのも手です。
本来このような管理組合にもち込まれる問題には、専門的な知識を持っている管理会社が相談に乗るべきなのですが、現状では、管理会社が事業主の関連会社であることがほとんどで、事業主の代理人のようになってしまいます。そうなると住民としても相談できる専門家がいないことになり、結局、事業主の提示する補修などを受け入れることになってしまうようです。そのような時に、われわれのような第三者の立場で設計を行なっている建築士に相談していただければ、技術的側面からの判断や、補修工事の適否、交渉の進め方などのアドバイスもできると思います。
裁判所ではなかなか認められない契約解除
例えばパソコンを購入した場合に、パソコンが正常に起動しなければ契約解除して返品することができます。しかし新築分譲マンションの場合には、居住を目的として購入したのですから、居住するという目的が達成できない、いい換えれば居住できないという状態でなければ契約の解除が認められません。また共用部分のコンクリートに問題があっでも、その補修費用が売買契約の価格を上回るような金額にならなければ、契約解除ができないというのが、これまでの判例などで示されている裁判所の考え方です。しかしマンションの販売価格には土地代も入っており、その土地代も含んだ契約金額と補修相当費用とを比べることには大きな問題を含んでいると思います。建物補修工事費用が建物代金を上回るケースでは、これまでの判例の考え方でも契約解除とすべきだと、個人的には考えます。
判例では解約できない!!
一般的な分譲マンション契約書では、売主が契約の履行着手を行なう前であれば、手付け金の放棄による契約解除を申し入れることができます。とはいっても手付け金は自己資金として支払いができるなかで工面したお金ですから、そうそう手放せるものではないでしょう。
購入者が支払いを行ない、いったん建物の引き渡しを受けてしまうと状況が大きく変わります。すでに契約の履行着手があったことになりますので、それ以降は、契約の目的が達成できない場合には契約を解除することができますが、そこまで問題が大きくなければ契約の解除はできません。例外的に補修する費用が著しく高額になり、購入価格を上回るような場合に契約解除が認められることはあります。
しかし、建物代金に相当する補修工事とは、ほとんど建て替えに近い大規模な工事になります。それに少し足りない補修費用でも契約解除できないというのは、法律を守り契約内容を守った建物を期待していた購入者にとって、一市民としての感覚でもちょっとおかしいのではないかと考えます。
判例では、たとえ屋上の共用部分の雨漏りがあっても、補修して住むことができるのであれば居住目的は達成できていると考えられています。実際に私か相談に乗って交渉中の分譲会社は、共用部分の補修工事が1年以上にわたるような大工事になっても、その工事が終われば居住目的を達成できるのだから、契約の解除はできないと主張しています。このような状況であっても「居住目的が達成できている」と裁判所が認定するのであれば、ほぼ完全に「マンションは解約できない」ということになるのではないでしょうか。
現在のマンションの販売方法
現在の多くの分譲マンションの販売方法は、パンフレットや図面集だけで契約を行なう、いわゆる「青田売り」です。売買契約というのは、そこにある物を売買するという考え方ですので、「青田売り」は実は著しくイレギュラーな状態の契約になります。これは消費者が求めたものではなく、事業主(デベロッパー)が少しでも早く資金回収を行なうために開発した契約手法なのです。したがって、消費者のニーズが「完成した建物しか買わない」ということになれば、事業主はそうせざるを得ないでしょう。しかしながら、ほとんどの事業主は「青田売りでも売れるから青田売りを行なっている」というのが現状です。契約前に契約書をよく読んで理解しておくことが、こうしたトラブルを防ぐ一番の方法です。
契約解除について
契約解除については、契約書や重要事項説明書には以下のように記載されていることが一般的です。
売主又は買主は、それぞれの相手方が契約の履行に着手するまでは本契約を解除することができ、次の各号に従います。①売主が解除したときは、買主に対して受領済みの手付金を返還し、かつそれと同額の金員を支払います。②買主が解除したときは、売主に対して支払い済みの手付金を放棄しなければなりません。
売主又は買主は、相手方が本契約に違反したときは、相当の期間を定めて催告したうえで、本契約を解除することができ、次の各号に従います。①売主が本契約に違反したので、買主が本契約を解除したとき、売主は受領済みの金員を無利息で全額買主に返還し、かつ手付金相当額を違約金として買主に支払います。②買主が本契約に違反したので、売主が本契約を解除したとき、売主は手付金を違約金として没収し、中間金を受領しているときは、無利息でこれを買主に返還します。
以上のような契約内容の場合、売主が履行に着手する以前であれば、買主は手付解除することができます。手付け解除の場合、いわゆる「手付金の放棄」さえすればよく、解除に何らの理由もいりません。ただし「手付金」を契約書に明示しておくなどの注意は必要になります。
どのような理由で契約解除するかによって、買主側にペナルティが科せられる場合があります。押さえておきたいポイントだけ説明します。まず「契約違反による解除」という項目。たとえば、物件の引渡期日が過ぎているのに売主が建物を引き渡してくれないといった場合に使える事項です。契約を解除にしたうえ、違約金も請求できるのでしっかり頭に入れておきましょう。
ローン特約・住宅ローン特約
さらには「ローン特約による解除」という、買い主にはありかたい項目があります。これは予定していた住宅ローンが借りられなかった場合、事前に取り決めておいた特約の期間内であれば、契約日を白紙に戻すとともに手付金を全額返還してくれるというものです。消費者程の観点で作られたものです。
個別の契約に注意すること
デベロッパー、あるいはその物件によって独自の契約書を作成していますので、内容を契約前に十分に確認しておくことが必要です。なかには、契約のなかに損害賠償額の予定の項目を加え、契約違反による解除の際、「違約金として売買代金の20%相当額を損害賠償額とする」などの文言を入れている場合があります。このような契約では、買主側の事由によって契約が解除された場合は、文言にある損害賠償額を請求されることになり、現実的には契約解除が著しく困難になっています。
しかしながら消費者契約法の施行により一方的に消費者にとって不利な契約は、契約そのものが無効になりますので、もしこのような文言の入った契約書を提示するような分譲業者であれば、その業者から購入することは避けたほうがよいでしょう。また実際にこのような悪質な内容で契約してしまった場合で契約解除したい場合には、弁護士に相談して手続きを進めることが必要になります。契約書に署名捺印することには、双方がその内容に納得したと見なされますので、あとになって後悔しないように充分に内容を確認して、不明な点がある場合には、納得のできる説明を求めましょう。
売買契約における瑕疵担保責任
一般的には、売買契約では買主が売主に補修の請求をする権利はないと考えられています。例えばパソコンが起動しないときに、そのパソコンを修繕するのではなく、お金を返したり、新しいパソコンを渡すことで解決するという考え方からきています。分譲マンションの場合には、容易にお金を返したり交換したりできないのですが、売買契約という縛りがあるので、民法では補修請求はできないことになっています。しかし、裁判では売買契約でも補修請求が可能との判断が出ていますし、実際に契約の解除までいかない場合に、補修の要求ができないというのもおかしな話になります。欠陥住宅の訴訟になると、瑕疵による損害賠償請求のほか、契約解除や不法行為などざまざまな法律上の見解を示さなければなりません。本当はそんなことにまで発展する前に、間違ったところは速やかに直すという心がけがあれば、もう少し建築紛争も減少するのではないかと考えています。
コメント