分譲マンションの総戸数-大規模物件が良い?
マンション購入を検討する際、多くの方が気にするのは「立地」「価格」「間取り」などですが、実は「総戸数」も非常に重要な要素です。
大規模マンションと小規模マンションでは、将来的な資産価値やランニングコストに大きな違いが生じることがあります。本記事では、マンション選びで総戸数がなぜ重要なのか、そして大規模・小規模それぞれのメリット・デメリットを詳しく解説します。マンション購入は人生の中でも大きな買い物の一つであり、後悔しないためにも総戸数という観点からも慎重に検討することが重要です。
結論からお伝えしますと、購入を避けるべきマンションには次のような特徴があります。管理費・修繕積立金の滞納額が100万円以上のマンション、旧耐震基準のマンション、駅から15分以上のマンション、定期借地権付きのマンション、自主管理のマンション、総戸数30戸以下のマンション、事務所使用可能のマンション、地上15階建てのマンション、投資用不動産混合型のマンションです。それぞれなぜ避けるべきなのかを詳しく解説していきますので、失敗して後から大きく後悔しないためにも、中古マンションの購入を検討している方は必見の内容になっています。
総戸数が重視される理由
マンション購入を考える際、多くの方が階数や眺望に注目しますが、実は総戸数も非常に重要な要素です。なぜなら、総戸数はマンションの管理の安定性と建物の寿命に大きく関係しているからです。マンションを適切に維持管理するためには、管理費と修繕積立金の徴収が必要不可欠です。これらのお金を使って共用部分の管理や大規模修繕工事などを実施していくからです。
管理費はエントランスや廊下、階段、エレベーターの清掃、設備の定期点検、管理人の人件費など、マンションの維持管理に使われています。管理費の滞納が続くと、管理の質が低下してしまい、清掃が行き届かず共用部分が汚れたままになったり、エレベーターが故障しても修理が後回しになったりといった問題が発生することもあります。結果として美観や快適性が損なわれ、住み心地が悪くなってしまいます。
また、修繕積立金は12年に1度程度行われる外壁や屋上などの大規模な修繕工事のために積み立てられるお金です。この修繕積立金が不足すると、工事が予定通り実施できなくなり、建物の劣化が進んで雨漏りやひび割れといった問題が発生し、資産価値の低下を招く可能性が高くなります。
そして、滞納によって起こる最も深刻な問題が、管理組合が機能していない可能性があるということです。管理組合は管理費や修繕積立金の徴収・管理、修繕計画の策定、住民間のトラブル対応など、マンションの管理・運営を担う住民の組織です。滞納が多いマンションでは、この管理組合が正常に機能していないため、計画通り貯められていないケースが多いのです。管理組合が機能していないと、修繕計画が適切に立てられなかったり、住民間のトラブルが解決しなかったり、セキュリティ対策が不十分になったりと、様々な問題が発生するリスクが高まります。
具体的には、管理費と修繕積立金の安定した積み立てにマンション規模が関係しています。総戸数が多いほど、1戸あたりの負担割合が小さくなり、一部の住民が滞納しても全体への影響が少なくなります。例えば、総戸数が30戸のマンションで1戸が滞納すると、滞納率は約3.3%になりますが、総戸数が100戸のマンションでは1%にしかなりません。このような理由から、総戸数が多いマンションの方が、管理費や修繕積立金の徴収が安定しやすく、計画的な修繕が可能となり、建物の寿命を延ばすことができるのです。
また、総戸数が多いマンションでは、管理会社との契約においても有利な条件を引き出しやすくなります。管理会社にとって、大規模マンションは重要な顧客となるため、サービスの質も向上する傾向があります。一方、小規模マンションでは、管理会社の収益が少ないため、サービスが行き届かないことも少なくありません。
総戸数が重視される主な理由は以下の通りです。
管理費・修繕積立金の値上がり
近年、管理費・修繕積立金の値上げが進んでいます。
東日本不動産流通機構のデータによると、2023年度の首都圏の月額管理費は1戸あたり平均21,831円、修繕積立金は10,097円でした。1平米あたりの金額を見てみると、管理費は平均200円、修繕積立金は平米187円となっています。これを2022年度と比較すると、1平米あたり管理費が前年度比2.1%増、修繕積立金は3.1%増となっています。また、管理費・修繕積立金の合計金額を2017年度と2023年度の6年間で比較すると、11.99%も上昇しているのです。かなり上昇率が高いことがわかります。
この値上げの理由は主に4つあります。この4つの理由から推測すると、今後も値上がりが続く可能性が高いと考えられます。
分譲時に管理費・修繕積立金が低く設定されすぎている
1つ目の理由は、分譲時に管理費・修繕積立金が低く設定されすぎていることです。近年、マンションの価格高騰でオーバーローンが増加していることはご存知の方も多いでしょう。特に新築マンションに関しては、なかなか手が届きにくい販売価格になっていることもあり、デベロッパー側としては初期費用を抑えて少しでも購入者の幅を広げるために、管理費や修繕積立金を最初は極限まで低く設定する不動産会社が増えています。
実際にデータを見てみると、平成22年以降の新築分譲マンションは1戸あたりの管理費・修繕積立金が安く設定されています。国土交通省が公表している「平成30年度マンション総合調査結果から見たマンションの居住と管理の状況」というデータによると、平成22年以降の管理費・修繕積立金は平均8,351円なのに対して、平成12年から平成21年は13,000円、平成2年から平成11年は17,000円でした。約3,000円もの差があり、かなり顕著に数字として現れています。
このように最初に低く設定されている場合、いずれは修繕工事を行っていくために相場に合わせなければならなくなるので、大幅に足りていなければ途中から急激な値上げが必要となってしまいます。過去に足りなかった分を遡って徴収しなければいけないので、値上げのカーブが急激になってくるのです。
修繕工事費が高騰している
修繕積立金が上がっている理由の2つ目は、工事費がそもそも高騰しているからです。工事費は2011年から2021年にかけて緩やかに上昇していき、2022年を境に急激に上昇しています。その主な原因は建築資材がそもそも上がっていることです。実際に内閣府のホームページで公表している「建築資材価格の高騰と公共投資への影響について」というデータによると、2020年を100とした場合、2022年の建築材価格は126、土木材は118まで上がっていると公表されています。これをもう少し遡って2011年の建築材価格は93だったことを考えると、価格の高騰が明らかです。
この建築資材が高騰している要因としては、世界的な建築需要の高まりや供給不足による鉄、アルミニウム、木材などの建築資材に使われる原材料費やエネルギーコストの世界的な上昇が考えられます。さらに日本ではそのような原材料を輸入に依存している部分が多いので、円安によって材料調達コストが高くなってしまっていることも大きく関係しています。
長期修繕計画外の工事の発生
理由の3つ目としては、計画外の工事の発生です。マンションを維持するためには長期修繕計画を立てるのですが、なかなかその計画通りに進まないことも多いです。例えば大災害に見舞われたり、当初想定していた以上に劣化が進んでしまって早急に対応しなければならなくなったりすることがあります。このような場合は、元々の修繕計画の中になかった対応を別で行わなければならないので、計画外の工事が必要になってきます。すると追加で修繕費を徴収しなければいけないという状況にもなってしまうでしょう。
また、このような想定外の工事の他にも、そもそも計画の段階で必要な修繕項目を見落としていたり、修繕周期を見誤ったりすることもあり得ます。そのため、最初に綿密な長期修繕計画を立てていないマンションは、途中から管理費・修繕積立金を値上げするリスクが高いということになります。
国土交通省のガイドラインの改定
最後に値上がりしている理由の4つ目は、国土交通省のガイドラインの改定です。国土交通省はマンションの適切な運営のために「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」というものを公表しているのですが、その中で老朽化による建替えが必要なマンションの増加を考慮して、2021年に貯蓄すべき修繕積立金の金額の基準を増加させました。国土交通省が公表している「管理・修繕に関するテーマの検討」というデータによると、2011年度版のガイドラインでは必要な修繕積立金は1戸あたり10,410円とされていましたが、2021年度版のガイドラインでは約1.5倍の21,420円であると変更されました。5割も上がっているのです。
管理費・修繕積立金をどのくらいにするのかは、このガイドラインを参考に管理組合が総会で話し合って決めていくので、基準がこれだけ上がると、結果として設定される金額も上がってしまいます。また、2022年には「マンションの管理計画認定制度」という制度が始まりました。これは、マンションの管理計画が一定の基準を満たしている場合に地方公共団体から認定を受けることができる制度です。これによってマンション管理が可視化され、より重要視されるようになりました。修繕積立金の設定額はこの制度の審査項目にも含まれているので、認定を受けるために値上げに踏み切るマンションも増えてきているというのが現状です。
このような管理費・修繕積立金はマンション生活を支える重要なお金であるので、値上げもやむを得ないところがありますが、入居後に急な値上げが行われていくと、経済的にも精神的にも負担がかかってしまいます。そのため、売買契約を締結する前に、毎月の徴収額が今いくらなのか、今どのくらい積立金が溜まっているのか、今後値上げの予定があるのか、今の積立方法で本当に足りるのかといったことを確認しておく必要があります。
そして、この値上がりの影響をどのくらいダイレクトに受けるのかというのは、マンションの総戸数が何戸くらいかによって変わってくる可能性が高いのです。つまり、中古マンションを購入する際は、総戸数別の特徴というものをしっかり押さえた上で検討していくことが今後さらに重要になってきます。
管理費・修繕積立金の値上がりの主な理由をまとめると・・・
- 分譲時に低く設定されすぎている(販売戦略として)
- 工事費の高騰(建築資材価格の上昇、円安の影響)
- 計画外の工事の発生(災害対応や想定以上の劣化)
- 国土交通省のガイドライン改定(2021年に約1.5倍に引き上げ)
年度 | 管理費(1㎡あたり) | 修繕積立金(1㎡あたり) | 上昇率(前年比) |
---|---|---|---|
2022年 | 196円 | 181円 | – |
2023年 | 200円 | 187円 | 管理費:2.1%増 修繕積立金:3.1%増 |
国土交通省のガイドラインによると、2011年度版では必要な修繕積立金は1戸あたり10,410円とされていましたが、2021年度版では約1.5倍の21,420円に引き上げられました。この大幅な引き上げは、マンションの老朽化対策や長寿命化を図るための措置ですが、管理組合にとっては大きな負担増となっています。
これで完璧!総戸数別のメリット・デメリット
総戸数の大小について明確な基準はありませんが、ここでは100戸以上を大規模マンション、50戸未満を小規模マンションとして解説します。まずは小規模マンションのメリットとデメリットから見ていきましょう。
〇メリット【小規模マンション】
小規模マンションのメリットの1つ目は、比較的売買金額が安いことです。小規模マンションは共用設備が少なく、装飾や設備も必要最低限な状態になっていることが特徴です。そのため建築価格が抑えられていて、比較的安く購入できる物件となっています。2つ目のメリットは、管理組合の業務が大規模マンションよりも楽なことです。区分所有者が少なくなるほど住民の意思決定はしやすくなり、管理組合の方針も決めやすくなります。建替えといった多くの区分所有者から承諾を得なければならない場合でも、ある程度スピード感を持って進められるというメリットがあります。
また、小規模マンションでは住民間のコミュニケーションが活発になりやすいという特徴もあります。住民の数が少ないため、顔見知りになりやすく、コミュニティが形成されやすいのです。これにより、防犯面での安心感や、困ったときの助け合いなど、住環境の質が向上することもあります。さらに、小規模マンションでは、管理組合の活動に興味を持ちやすく、限られた人数で組合を運営していくため、非常に内容が良くなりやすい傾向があるマンションも実はたくさんあります。
✕デメリット【小規模マンション】
一方で、小規模マンションのデメリットとしては、管理費・修繕積立金が共に高くなりがちであることが挙げられます。管理費と修繕積立金は部屋の広さに応じて計算されるのですが、小規模マンションの場合は部屋の数が少ないので、1部屋あたりの負担額が高くなりがちです。また、小規模マンションは敷地が狭く、隣に大規模建物が立つと景観が悪くなったりするケースもあります。景観が悪くなるとマンションの特性である眺望の良さがなくなってしまうので、暮らしていても、せっかくのマンションの醍醐味を感じられにくいというのは残念なことですし、資産価値が売却する時などに下がる可能性があるというデメリットがあります。
さらに、小規模マンションでは、1戸の滞納が全体に大きく影響するというリスクもあります。例えば、30戸のマンションで1戸が滞納すると、全体の約3.3%が滞納していることになり、修繕計画に大きな影響を与える可能性があります。また、共用設備が限定的であることも、小規模マンションのデメリットの一つです。大規模マンションでは当たり前のように設置されている宅配ボックスやゴミ置き場の24時間利用、防犯カメラの設置などが、小規模マンションでは費用対効果の面から見送られることもあります。
〇メリット【大規模マンション】
次に、100戸以上の大規模マンションのメリットとデメリットを見ていきましょう。まず、大規模マンションのメリットとしては、グレードが高いことが挙げられます。大規模マンションには広い敷地があり、敷地内に公園があったりすることもあります。建物内に高級ホテルのようなロビーがあったり、コンシェルジュがいたりすることもあります。これは区分所有者の数が多く、仮にこれを運営するのに高額な管理費がかかったとしても、戸数が多いので1戸あたりの負担は少なくて済みます。これが大規模マンションならではの魅力です。
また、マンションの管理費は全体でかかっている費用を頭数で割って負担しているので、総戸数が多いほど1戸あたりにかかる管理費は比較的安くなるという点も最大のメリットかもしれません。ただし、建物の規模が大きくなると修繕積立金の総額は増額するので、頭割りしても高くなってしまうケースもあることは注意した方がよいでしょう。
さらに、大規模マンションでは、豪華な共用施設が設置されていることが多いというメリットもあります。例えば、ジムやパーティールーム、ゲストルームなどの共用施設は、1戸あたりの負担が少ないため、大規模マンションでこそ設置できるものです。また、住民の数が多いため、人間関係が比較的ドライになりやすく、プライバシーが保たれやすいという側面もあります。
✕メリット【大規模マンション】
一方で、大規模マンションのデメリットとしては、敷地の外に出るまでに時間がかかることが挙げられます。駅から徒歩5分と記載されていても、特にタワーマンションのようなエレベーターが混むマンションの場合は、そもそもエレベーターで1階に到着するだけでも数分かかってしまい、そこから1階から敷地の外まで歩いて数分かかる物件もあります。不動産表記では駅から敷地の端までが分数表記されるというルールになっていますので、不動産広告で5分でも、実際部屋からは10分かかるということも十分あり得ます。
また、住民が多くなればなるほど、多様性が高くなりますので、管理組合の方針を決めにくくなるというのもデメリットと言えるでしょう。大規模マンションでは、管理組合の活動に無関心な住民が増える傾向があり、それによって管理会社の言いなりになってしまい、本来必要ではない工事費まで支払ってしまうケースもあります。これは「ぼったくられる」リスクとも言えるでしょう。
さらに、大規模マンションでは、管理会社を変更することが難しいというデメリットもあります。大規模マンションは運営が複雑で、コンシェルジュや防災マネジメントなどの特殊なオペレーションを引き継げる管理会社が少ないため、管理会社を変更するハードルが高くなります。結果として、管理会社が変わらず、管理会社から高額な費用を請求され続けるというリスクもあるのです。
小規模マンションのメリット
- 比較的売買金額が安い
- 管理組合の業務が大規模よりも楽
- 住民間のコミュニケーションが活発になりやすい
- 意思決定がスムーズ
- 建替えなどの合意形成がしやすい
小規模マンションのデメリット
- 管理費・修繕積立金が高くなりがち
- 1戸の滞納が全体に大きく影響する
- 敷地が狭く、隣接建物により景観が悪化するリスク
- 共用設備が限定的
- 管理組合の運営が不安定になりやすい
大規模マンションのメリット
- グレードが高い傾向
- 豪華な共用施設が設置されていることが多い
- 管理費が比較的安い(スケールメリット)
- 1戸の滞納が全体に与える影響が小さい
- 売却時の流動性が高い
大規模マンションのデメリット
- 敷地の外に出るまで時間がかかる
- 住民との関係性が複雑になりやすい
- 管理組合の意思決定に時間がかかる
- 管理会社に「ぼったくられる」リスク
- 管理組合の活動に無関心な住民が増える傾向
- 総戸数別の修繕積立金目安(国土交通省ガイドライン)
- 総戸数別の修繕積立金目安グラフ
避けるべきマンションの特徴
ここまで総戸数の観点からマンション選びについて解説してきましたが、ここからは具体的に避けるべきマンションの特徴について詳しく見ていきましょう。
まず1つ目は、管理費・修繕積立金の滞納額が100万円以上のマンションです。このようなマンションは、共用部分の管理が不十分になったり、大規模修繕工事ができなくなったり、そもそも管理組合が機能していなかったりといった問題が発生している裏付けになります。管理費はエントランスや廊下、階段、エレベーターの清掃、設備の定期点検、管理人の人件費など、マンションの維持管理に使われています。しかし、この管理費の滞納が続くと、管理の質が低下してしまうので、清掃が行き届かず共用部分が汚れたままになったり、エレベーターが故障しても修理が後回しになったりといった問題が発生することもあります。結果として美観や快適性が損なわれ、住み心地が悪くなってしまいます。
また、修繕積立金は12年に1度程度行われる外壁や屋上などの大規模な修繕工事のために積み立てられるお金です。しかし、この修繕積立金が不足すると、工事が予定通り実施できなくなり、建物の劣化が進んで雨漏りやひび割れといった問題が発生し、資産価値の低下を招く可能性が高くなります。そして、この滞納によって起こる最も深刻な問題が、管理組合が機能していない可能性があるということです。管理組合は管理費や修繕積立金の徴収・管理、修繕計画の策定、住民間のトラブル対応など、マンションの管理・運営を担う住民の組織です。滞納が多いマンションでは、この管理組合が正常に機能していないため、計画通り貯められていないケースが多いのです。管理組合が機能していないと、修繕計画が適切に立てられなかったり、住民間のトラブルが解決しなかったり、セキュリティ対策が不十分になったりと、様々な問題が発生するリスクが高まります。このような理由から、管理費・修繕積立金の滞納額が100万円以上あるマンションは、住環境や資産価値の低下を引き起こす可能性が高いため、避けた方が良いでしょう。
2つ目は、旧耐震基準のマンションです。不動産経済研究所の「首都圏新築分譲マンション市場動向2024年」のデータによると、2024年の東京23区の新築マンションの供給戸数は30.5%減の8,275戸と少なくなっていて、立地の良い物件ほど過去に開発された築年数が古いマンションが多くなっています。そうなると、旧耐震基準を含む築古マンションを検討されている方もいらっしゃると思います。しかし、特に売却を前提に検討している場合は、旧耐震の物件はお勧めしません。
そもそも旧耐震基準とは、1981年5月31日より前に建築確認申請された基準で、大きな特徴やデメリットとしては、将来的に融資がつきにくいことと、耐震面に不安を感じることの2つが挙げられます。旧耐震基準のマンションは、金融機関によっては融資を制限している場合も多く、そもそも取り扱っている銀行の数が少ないです。また、取り扱っていたとしても、審査が厳しくなったり、金利が高くなったりすることがあります。そうなると、ご自身が今購入する時も、将来売却時も融資が少ないので、なかなか売れにくく、売れたとしても相場よりも低い価格になってしまう可能性が高いのです。
また、耐震性については、旧耐震基準は震度5程度の地震で倒壊しない、新耐震基準は震度6強から7程度でも倒壊しないレベルという基準になっています。実際、過去に発生した地震被害のデータを見てみると、旧耐震と新耐震でそこまで大きな差はなかったとされてはいますが、万が一地震が発生した時に本当に大丈夫なのかと不安を強く感じてしまう方は、そのような不安感が小さなストレスとして蓄積されてしまいますので、避けた方が無難でしょう。
3つ目は、駅から15分以上のマンションです。不動産広告の表示規約では、80mを徒歩1分で計算するように規定されています。したがって、徒歩15分と表記されていれば、単純計算で駅まで1,200mあるということになります。しかし、一般的な人の歩行速度は大体時速3.5km程度と言われていて、1,200m歩くには20分かかるのです。しかも、信号待ちや坂道などの要素がありますよね。広告表記の計算上では考慮されていないので、場合によってはさらに1〜2分かかってしまうこともあります。つまり、駅から徒歩15分以上となると、実際の利便性はかなり低くなってしまいます。
また、スーパーや公共施設などは大体駅の近くにあることが多いので、生活のしやすさという点でも劣ってしまいます。マンションには多くの方が利便性の高さを求める人が買っていきますので、駅から遠い物件は敬遠されやすくなります。敬遠されるということは、需要が低下して将来的に売却する時に融資がつきにくい傾向が強まるということです。ご自身が散歩型で歩くのが好きという場合は良いかもしれませんが、特に資産性を重視される場合、駅徒歩15分以上の物件は避けた方が良いでしょう。
4つ目は、定期借地権付きのマンションです。そもそも定期借地権とは何かというと、事業主が期限付きで土地の賃借を行って、そこに建てられた建物の所有者が地代を支払っていくというものです。この定期借地権付きのマンションは、事業主が土地を借りてマンションが建築されるので、土地の仕入れ代が販売価格に反映されにくいのです。そのため、通常のマンションよりも1割以上安く購入できると言われていて、海外にとっては魅力的な価格に見えることが多いのです。そのため、立地条件の割に比較的お手頃な価格で手に入れることができるので、良いと思われる方は多いのですが、契約期間が満了になると、建物(マンション自体)を解体して更地にしてから事業主に土地を返すというのが、法で決められた原則とされている点に注意しなければいけません。そして、返還される際には、事業主から立退き料を支払われることはないのです。
つまり、定期借地権付きのマンションは、購入して自分が住んでいる間は自分の資産として考えることができるのですが、最終的には事業主に返還しなければならないので、所有していたマイホームを手放す必要があるということなのです。また、毎月のランニングコストについても、住宅ローンの返済に加えて、土地価格の2〜3%平均と言われている地代を支払う必要があるので、この固定費が高くなってしまう点も注意が必要です。さらに、売却を検討する場合には、特に契約期間が残り少なくなってくると、次の融資を見つけることがかなり難しくなりますので、資産価値がぐっと低下してくるのです。
このようなことから、特に永住の住処として住みたい、資産性を重視して購入したいという方にとっては、デメリットの部分の影響が非常に大きいのでお勧めしません。ちなみに、不動産経済研究所によると、今年に首都圏で供給される定期借地権付きのマンションは2,000戸に登る可能性があると言われていて、2008年に供給された1,200戸を大きく上回って過去最大規模になると予測されているようです。そのため、購入の選択肢の1つとして検討することもあるかもしれませんが、注意点を押さえた上で選択するようにしていきましょう。
5つ目は、自主管理のマンションです。マンションにはいくつかの管理の種類・形態があるのですが、管理会社に任せているのが委託管理、住民だけで管理していくのが自主管理と、大きく2つに分けられます。NGマンションなのは、後者の自主管理の物件です。
そもそも、マンションの管理の業務というのは、共用部分の清掃や修繕・点検などの建物維持管理、管理費を徴収したり1年に1回決算業務をして会計報告したり、そして管理規約の制定や予算管理、理事会・総会運営といった仕事が大まかな内容です。これらが適切に運営されていると、マンション全体の資産価値や快適な住環境を維持していくことができるというわけです。この自主管理というのは、先ほどのような管理の繁雑な業務を自分たちだけで行っていくというものなのです。
一見すると、自発的に管理するのは良いことのように感じるかもしれませんが、よく考えてみてください。仕事や家事で忙しい一般の方が、専門的な知識が必要なマンション管理を適切に行えると思いますか?どうしても管理業務の経験のある方が住民にいて、その方に業務が偏ってしまったり、一部の人が長期間役職を担うことで不正が行われてしまうといった不健全な管理体制になる可能性が高くなってしまうのです。実際、平成6年から平成19年にかけて東京都世田谷区松原で行われたマンションで、管理担当が管理・修繕積立金を横領して裁判になったという事例もあります。
このように、自主管理のマンションは適切な運営がされずに、修繕工事が適切に行われなかったり、管理・修繕積立金の滞納が進んでしまったりして、マンションの質の低下・価値下落リスクが高い上に、事件などに発展するケースもありますので、あまりお勧めできません。
6つ目は、総戸数30戸以下のマンションです。総戸数30戸以下、つまり小規模なマンションは、1戸あたりの管理費・修繕積立金が高額になりやすい、そして管理組合の運営が不安定になりやすいといった理由からお勧めできません。
マンションはそこに住む区分所有者が管理・修繕積立金を貯めていかなければいけませんが、戸数が少ないと1戸に対する負担割合が大きくなりがちなので、1人でも滞納すると滞納率がぐんと跳ね上がってしまいます。そうなると、当初の計画通りに修繕が進められず、劣化が進んでしまって、マンション全体の資産価値が下落してしまいます。また、最近は管理・修繕積立金がインフレや建築材料のインフレ傾向があり、高騰している傾向がありますから、小規模マンションだとよりダイレクトにその影響を受けてしまう可能性も高いです。
さらに、管理組合についても、役員や理事を選出する際に限られた人数の中から選ばれなければならないので、成り手が不足してしまって、運営が不安定になってしまうこともあります。そうなると、共用部分の管理がおろそかになったり、住民の意見が反映されにくくなったり、トラブルが発生しやすくなってしまいます。このようなことから、総戸数30戸以下の小規模マンションは、ランニングコストや快適性、資産性などのあらゆる面でのリスクがありますので、不動産専門家としてはあまりお勧めしていません。
7つ目は、事務所使用可能のマンションです。事務所使用可能のマンションというのは、用途地域上、共同住宅・事務所と併記されていて、事務所として利用できる物件のことです。マンションの一室が事務所として利用できると、不特定多数の人が建物内に入ることとなるので、犯罪リスクや騒音トラブル、トイレ所のトラブルなどが発生するリスクが高まります。
警視庁の「スマイル防犯100番」というデータによると、侵入犯罪の侵入口は、共同住宅の場合は玄関口からというのが最も多くて、6割程度占めていると公表されています。玄関のメインエントランスからどどっと入ってきているわけです。また、侵入窃盗の侵入手口としては、無締まりもしくは施錠忘れが多くなっています。鍵をかけ忘れてもオートロックで侵入できない、住居だけで建物内に人が入らないということならリスクは低くなると思いますが、事務所使用可能で不特定多数の人が入り込むとなると、住民を把握しにくいことから、いつの間にか犯罪者が玄関から入ってしまって侵入されるというケースもあります。
また、飲食店が入居しているとゴミの匂いや騒音問題が発生して、快適に過ごせなくなる恐れもありますので、事務所使用可のマンションは不動産専門家としてはあまりお勧めしません。
8つ目は、地上15階建てのマンションです。マンションは建築基準法によって、31m、45m、60m、100mを区切りとして、それぞれ建築基準法と消防法という法律の満たさなければいけない条件が決まっているのです。建物の高さが高くなるにつれて、その基準は複雑になっていって、設計と建築により多くのコストがかかる仕組みになっているのですが、その中で建築上コストバランスが最も良いのが45mと言われています。そのため、費用対効果を最大限生かすために、45mギリギリに建築することが多いのです。
マンションの階高は3m程度に設定されるので、45mなら14階か15階建てになりますが、実はこの違いが住み心地に大きな違いを生むことがあるのです。建物には天井高という概念があるので、3mの階高は2.4m程度の天井高になります。2.4mの天井高は圧迫感を抱かない一般的な高さになりますが、問題はその構造なのです。階高に余裕があれば、天井も床も二重になって、上下からの音を和らげてくれます。しかし、階高に余裕がないと、天井と床にクッションを貼って、クロスやフローリングをその上に敷くのです。この直張りだと、騒音が上下に伝わりやすくて、騒音トラブルが発生しやすいマンションになってしまうという確率が上がるのです。
また、二重床の場合は、床下の空間に給水管・排水管、ガス管、電気配線などが通されていることが多いので、リノベーションで間取りを大きく変更する時にも、配管の移動を比較的容易に行うことができるのです。一方で、直床の場合は、配管が通っている部分だけ二重床になっているので、後からリノベーションで水回りを変更するのが難しいのです。
14階なら階高は3.21m、比較的余裕があるので二重床で作られていることが多いのですが、15階建ては約3mで余裕がないので直張りにしていることも多くあります。このような理由から、ギリギリ15階建てで入れてしまった物件は、階高が圧迫されてしまうので、防音性能やリノベーションの自由度が低い可能性があるため、あまりお勧めしない、注意しておかなければいけないポイントだと言えるでしょう。
最後に9つ目は、投資用不動産混合型のマンションです。簡単に言うと、住宅用と賃貸用のスペースがそれぞれ用意されたマンションのことです。2015年から2021年までは日本のインフレ率は1%以下と低く推移していたのですが、2022年以降は2.0%以上も上昇しています。不動産はインフレ率の上昇とともに価格が上がっていく傾向があるので、物価上昇対策として不動産投資が注目されていて、今後も不動産投資が活発化すれば、投資用不動産混合型のマンションも増加していくと予想されます。
しかし、投資用不動産混合型のマンションは、そのマンションを所有する居住者にとって注意しなければならない点がたくさんあります。それは、投資目的の所有者は自分がそこに住むわけではないので、マンションの管理を他人事と捉えていることが多いのです。先ほどもお伝えしましたが、マンション管理というのは物件の資産価値や日々の暮らしの快適さに直結していきます。それなのに、管理費や修繕積立金の支払いを滞納したり、共用部分の利用ルールを守らなかったりすることが起こると、マンションの資産価値が低下するだけではなく、居住者間のトラブルが発生する可能性も高いのです。
また、投資目的の所有者が多いマンションでは、賃貸住戸の入居者が頻繁に入れ替わるケースもよくありますので、結果として住民間のコミュニティが形成されにくく、ルールを守った暮らしや防犯面でも不安が残ります。そのため、不動産専門家としては、投資用不動産混合型のマンションはできれば避けた方が良いと考えています。
避けるべきマンションの特徴をまとめると・・・
サイト運営者の見解【どちらを選ぶべきか】
ここまで小規模マンションと大規模マンションのメリット・デメリット、そして避けるべきマンションの特徴について詳しく解説してきました。では、小規模マンションと大規模マンション、どちらを選ぶべきなのでしょうか。
私としては、大規模マンション(100戸以上)をお勧めします。最大の理由は、管理費・修繕積立金の1戸あたりの負担金額が少なくなるからです。先ほども解説したように、管理費・修繕積立金は今後いろいろな要素で上がっていく可能性が高いと思います。そのような状況の中で、1戸あたりの負担が大きくなりがちな小規模マンションを選んでしまうと、月々のランニングコストがますます増えてしまって、生活が圧迫されて、せっかくのマイホームでの暮らしがストレスのあるものになってしまいかねません。そのため、現役の不動産業者としては、少なくとも100戸以上ある物件をお勧めしたいと思います。
しかし、そうは言っても、単身の方やDINKS世帯の方の中には、あまり間取りは広くなくてもいいから、とにかく利便性を重視したいという方もいらっしゃると思います。そうなると、土地の広さ的に小規模マンションを選択肢にせざるを得ないことも多いと思いますので、そのような場合はもちろん無理に大規模マンションを選ぶ必要はありません。購入前にしっかり今後の修繕計画や現在の修繕積立金を確認してから購入するようにしていただければと思います。
また、小規模マンションの中にも、管理組合がしっかりと機能していて、修繕計画がきちんと立てられており、将来的にも管理費・修繕積立金の大幅な値上げが予定されていないような優良物件も存在します。そのような物件であれば、小規模マンションであっても良い選択肢となり得ます。重要なのは、総戸数だけでなく、管理組合の活動状況や修繕計画の内容、現在の修繕積立金の積立状況などを総合的に判断することです。
さらに、大規模マンションであっても、管理会社に「ぼったくられる」リスクがあることも忘れてはいけません。大規模マンションでは、管理組合の活動に無関心な住民が増える傾向があり、それによって管理会社の言いなりになってしまい、本来必要ではない工事費まで支払ってしまうケースもあります。そのため、大規模マンションを選ぶ場合でも、管理組合の活動状況や修繕計画の内容をしっかりと確認することが重要です。
最終的には、ご自身のライフスタイルや価値観、予算に合わせて、総戸数だけでなく、立地や間取り、設備、管理状況など、様々な要素を総合的に判断して、最適なマンションを選ぶことが大切です。ただし、先ほど解説した「避けるべきマンションの特徴」に該当する物件は、できるだけ避けるようにしましょう。
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