フライトナースは高年収だが求人が少ない?
フライトナースとは、ドクターヘリに搭乗し、救急現場で命を救う看護のスペシャリストです。医師と共に現場に急行し、限られた環境で最善の医療を提供する、看護師の中でも特に高度な技術と判断力が求められる職業です。
本記事では、フライトナースの魅力的な仕事内容から、なるための条件、年収、そして将来のキャリアパスまで、看護師としてのステップアップを考えている方に向けて詳しく解説します。
フライトナースとは?
フライトナースとは、医療用ヘリコプター(ドクターヘリ)に医師(フライトドクター)と共に搭乗し、救急患者のもとへ迅速に駆けつける看護師のことです。現場での初期治療から搬送中のケアまで、救命の最前線で活躍します。
通常の救急看護師とは異なり、ヘリコプターという限られた空間で、最小限の医療機器を用いて最大限の救命処置を行うという特殊なスキルが求められます。また、現場到着から病院搬送までの「黄金の時間」を有効に活用するため、迅速かつ的確な判断力も不可欠です。
フライトナースの歴史と発展
日本でのドクターヘリ導入は比較的新しく、2001年に「ドクターヘリ導入促進事業」が開始されました。それまでは主に消防防災ヘリが救急搬送を担っていましたが、医師が同乗していないため、現場での医療行為は限定的でした。
当初は数機のみでしたが、2007年のドクターヘリ特別措置法制定を機に全国展開が加速。現在では全都道府県に約56機が配備され、年間約3万件の出動で救命率向上に貢献しています。
日本のドクターヘリ配備数の推移(2001年~2024年)
フライトナースの仕事内容
フライトナースの主な仕事内容は、出動要請を受けてすぐに現場へ向かい、フライトドクターと協力して救命処置を行うことです。限られた医療機器と時間の中で、最適な判断と処置が求められます。
フライトナースの主な業務
- 救急医療の提供:現場での初期治療から搬送中の継続的なケアまで
- 医療機器の選定と準備:患者情報に基づき、必要な医療機器を事前に準備
- 患者アセスメント:限られた情報から患者の状態を素早く正確に評価
- 医師のサポート:フライトドクターの治療をスムーズに補助
- 家族ケア:患者家族への精神的サポートと適切な情報提供
- 多機関連携:消防、警察、搬送先病院との効果的な連携
- 記録と報告:治療内容や患者状態の正確な記録と報告
フライトナースによる救急処置(イメージ)
救命救急の現場では、患者だけでなく家族も大きな精神的ショックを受けていることが多くあります。フライトナースは患者への医療行為と同時に、家族への心理的ケアも重要な役割として担っています。冷静さを保ちながらも温かい対応ができる人間性も求められるのです。
フライトナースの出動から帰還までの流れ
- 出動要請と準備
要請を受けると、事前に準備している医療機器・医薬品を持ってドクターヘリに搭乗。通常、要請から約3~4分で離陸します。 - 飛行中の準備
消防本部から送られてくる患者情報をもとに、フライトドクターと治療方針や搬送先を検討。同時に、到着後すぐに使用する医療機器の準備を行います。 - 現場での活動
現場到着後は迅速に患者のもとへ向かい、フライトドクターの治療を支援。家族から情報収集も行い、必要に応じて精神的サポートも提供します。 - 搬送と継続ケア
搬送中も患者から目を離さず、常に状態変化に注意。ヘリ内の騒音環境では言語的コミュニケーションが難しいため、非言語的な観察が特に重要になります。
出動元の病院に戻った場合は、そのまま院内で治療を継続。別の医療機関へ搬送する場合は、救急車への乗せ換えと引き継ぎを行います。患者を医療チームに引き継いだ後は、次の出動に備えて待機状態に戻ります。
非出動時のフライトナースの業務
フライトナースは毎日出動するわけではありません。出動要請がない時間は、所属する救命救急センターでの通常業務を行います。また、フライト担当日には、ヘリ内の医療機器点検や物品確認、スタッフとのカンファレンスなども重要な業務です。
さらに、自己研鑽の時間も大切にしており、最新の救急医療技術や知識の習得に努めています。フライトナースは常に学び続ける姿勢が求められる職業なのです。
フライトナースの1日
フライトナースの1日は、出動要請の有無によって大きく変わります。以下は、複数回の出動があった日のタイムスケジュール例です。
時間 | 活動内容 | 詳細 |
---|---|---|
8:00 | 出勤・準備点検 | 医療バッグの内容確認、機器の動作チェック フライトスーツと無線機の装着 いつでも出動できる態勢を整える |
8:30 | 朝のカンファレンス | フライトドクターとの打ち合わせ 天候状況の確認と飛行可能エリアの把握 前日症例の振り返りと学び |
9:00 | 1回目の出動 | 交通事故現場への出動 気管挿管が必要な患者への対応準備 搬送先の救急部門との連携 |
9:30 | 現場活動と搬送 | 現場での初期治療と安定化 自院への搬送決定と連絡 搬送中の継続的な患者モニタリング |
10:00 | 院内での引継ぎと治療 | 救急チームへの詳細な申し送り 初期治療のサポート継続 患者状態が安定するまでフォロー |
11:00 | 振り返りと準備 | 症例の振り返りと改善点の検討 使用した医療物品の補充 次の出動に向けた準備 |
11:30 | 休憩 | 短時間で効率的な栄養補給 常に出動に備えた状態を維持 心身のリフレッシュ |
13:00 | 2回目の出動 | 山間部での心臓発作患者への対応 AEDと心臓薬の準備 循環器専門医との事前連携 |
13:45 | 専門病院への搬送 | 循環器専門病院への直接搬送 受け入れ先への詳細な情報提供 スムーズな引継ぎの実施 |
15:00 | 3回目の出動 | 海難事故現場への出動 低体温症と溺水への対応準備 複合的な救命処置の実施 |
15:30 | 重症患者の搬送 | 自院ICUへの搬送調整 家族への状況説明と心理的サポート 集中治療チームとの連携 |
16:30 | 業務終了準備 | 日没に伴う運航終了 患者経過の確認と記録 翌日担当者への申し送り事項の整理 |
17:00 | 退勤 | 1日の振り返りと記録完成 使用機材の最終確認と補充 次回勤務に向けた準備 |
フライトナースになるための条件
フライトナースになるためには、厚生労働省が定める厳格な条件をクリアする必要があります。これらの条件は、高度な救急医療を提供するために不可欠な基準です。
- 看護師経験5年以上、かつ救急看護経験3年以上:十分な臨床経験が基盤となります
- ACLSプロバイダー資格の取得:二次救命処置の専門的スキルが必須です
- JPTECプロバイダー資格の取得:病院前外傷処置の知識と技術が求められます
- 日本航空医療学会主催のドクターヘリ講習受講:航空医療の特殊性を学びます
- 第三級陸上特殊無線技士の資格:多くの病院で必須とされる通信技術です
フライトナースを目指すには、まずドクターヘリを運用している病院の救命救急センターに所属することが第一歩です。そこで救急医療の経験を積みながら、必要な資格を取得していきます。
ただし、条件を満たしただけで自動的にフライトナースになれるわけではありません。各病院には独自の選考基準があり、技術だけでなく、チームワークやコミュニケーション能力、ストレス耐性なども重要な選考要素となります。
必要な資格と取得方法
ACLSプロバイダー
ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)は、心停止や致命的な不整脈、急性冠症候群などの救命処置を学ぶための国際的な教育プログラムです。フライトナースにとって、この資格は救命の現場で適切な判断と処置を行うための基礎となります。
ACLSプロバイダー取得のポイント
- 受講料:約5万円前後
- 講習期間:2日間(16時間程度)
- 開催頻度:全国各地で月に数回開催
- 有効期間:2年間(更新には再受講が必要)
- 合格条件:筆記試験と実技試験の両方に合格
- 事前学習:テキストを使った自己学習が必須
参照元:日本ACLS協会
JPTECプロバイダー
JPTEC(Japan Prehospital Trauma Evaluation and Care)は、病院前での外傷患者に対する初期評価と処置を学ぶための教育プログラムです。現場での迅速かつ的確な判断が求められるフライトナースにとって、この知識は不可欠です。
JPTECプロバイダー取得のポイント
- 受講料:約2万円前後
- 講習期間:1日(8時間程度)
- 開催頻度:全国各地で月に数回開催
- 有効期間:5年間(更新には再受講が必要)
- 合格条件:筆記試験と実技評価に合格
- 事前学習:テキストによる予習が推奨
参照元:JPTEC協議会
日本航空医療学会ドクターヘリ講習会
日本航空医療学会が主催するドクターヘリ講習会は、航空医療の特殊性や安全管理、ヘリコプター内での医療行為の特徴などを学ぶ貴重な機会です。年に数回しか開催されず、定員も限られているため、受講のチャンスを逃さないよう注意が必要です。
ドクターヘリ講習会受講のポイント
- 受講料:約3万円前後
- 開催頻度:年に2回程度
- 定員:120名程度(競争率が高い)
- 内容:講義、シミュレーション、実技など
- 申込方法:日本航空医療学会ウェブサイトで案内
参照元:日本航空医療学会
第三級陸上特殊無線技士
第三級陸上特殊無線技士は、救急医療の現場で使用する無線通信を適切に扱うための国家資格です。フライトナースは消防や警察、病院間の連絡に無線を使用するため、この資格が必要となります。
第三級陸上特殊無線技士取得のポイント
- 取得方法:国家試験または養成課程修了
- 受験料:約5,000円前後
- 試験頻度:年に数回開催
- 養成課程:3日間程度の講習で取得可能
- 合格率:約70~80%(比較的取得しやすい)
参照元:公益社団法人日本無線協会
資格取得に関する注意点
これらの資格はフライトナースになるための必須条件ですが、資格を持っているだけでは選考を通過できません。実際の救急現場での経験や、チームワーク、ストレス耐性、コミュニケーション能力なども重要な評価ポイントです。また、病院によっては独自の追加条件を設けている場合もありますので、志望する病院の募集要項を事前に確認しておくことをお勧めします。
フライトナースの年収と待遇
フライトナースの年収は、一般的な看護師と比較して高い傾向にあります。これは、高度な専門性と危険を伴う業務内容が評価されているためです。具体的には、一般看護師より年間30~70万円程度高い水準となることが多いでしょう。
特に、危険搭乗手当や特殊勤務手当などの各種手当が加算されるため、年収600万円以上になることが一般的です。ドクターヘリを運用している病院は大規模な医療機関が多く、基本給や賞与も比較的高水準である点も魅力です。
看護師とフライトナースの年収比較
フライトナースの給与体系
項目 | 一般看護師 | フライトナース | 差額 |
---|---|---|---|
基本給 | 25~30万円 | 27~32万円 | +2万円程度 |
危険搭乗手当 | なし | 1~2万円 | +1~2万円 |
特殊勤務手当 | なし | 1~2万円 | +1~2万円 |
夜勤手当 | 1回あたり5,000~10,000円 | 1回あたり5,000~10,000円 | 同等 |
賞与 | 年間3~4ヶ月分 | 年間4~5ヶ月分 | +1ヶ月分程度 |
年収(概算) | 420~470万円 | 500~550万円 | +30~70万円 |
ただし、これらの金額は病院の規模や地域、個人の経験年数などによって大きく異なります。また、救急看護認定看護師などの追加資格を持っている場合は、さらに資格手当が加算されることもあります。
フライトナースの勤務形態
フライトナースの勤務形態は、基本的に救命救急センターの看護師と同様です。2交代制や3交代制のシフト勤務が一般的で、フライト担当日が月に数日程度割り当てられます。フライト担当日以外は、救命救急センター内での通常業務を行います。
ドクターヘリの運航時間は基本的に日の出から日没までとなっており、夜間は運航しない病院がほとんどです。そのため、夜勤はフライト業務ではなく、救命救急センター内での勤務となります。
フライトナースを目指せる就業先
フライトナースとして働ける病院は限られています。現在、日本全国で43都府県53病院にドクターヘリが配備されており、これらの病院でのみフライトナースとして活躍することができます。国の方針では全国80病院への配備を目指していますが、現状ではまだ達成されていません。
主なドクターヘリ配備病院
病院名 | 都道府県 | 運航開始年 |
---|---|---|
日本医科大学千葉北総病院 | 千葉県 | 2001年 |
愛知医科大学病院 | 愛知県 | 2003年 |
聖隷三方原病院 | 静岡県 | 2003年 |
和歌山県立医科大学附属病院 | 和歌山県 | 2003年 |
浦添総合病院 | 沖縄県 | 2005年 |
長崎大学病院 | 長崎県 | 2006年 |
久留米大学病院 | 福岡県 | 2006年 |
埼玉医科大学総合医療センター | 埼玉県 | 2007年 |
大阪急性期・総合医療センター | 大阪府 | 2008年 |
福島県立医科大学附属病院 | 福島県 | 2008年 |
手稲渓仁会病院 | 北海道 | 2008年 |
仙台医療センター | 宮城県 | 2009年 |
市立釧路総合病院 | 北海道 | 2009年 |
前橋赤十字病院 | 群馬県 | 2010年 |
青森県立中央病院 | 青森県 | 2010年 |
公立豊岡病院 | 兵庫県 | 2010年 |
東京都立墨東病院 | 東京都 | 2010年 |
信州大学医学部附属病院 | 長野県 | 2011年 |
島根県立中央病院 | 島根県 | 2011年 |
富山県立中央病院 | 富山県 | 2011年 |
福井大学医学部附属病院 | 福井県 | 2011年 |
岩手医科大学附属病院 | 岩手県 | 2012年 |
熊本赤十字病院 | 熊本県 | 2012年 |
高知医療センター | 高知県 | 2012年 |
鹿児島市立病院 | 鹿児島県 | 2012年 |
広島大学病院 | 広島県 | 2013年 |
旭川赤十字病院 | 北海道 | 2014年 |
愛媛県立中央病院 | 愛媛県 | 2017年 |
フライトナースに向いている人
フライトナースは特殊な環境で高度な判断を求められる職種です。以下のような特性を持つ人が、この職種に適していると言えるでしょう。
1. 学習意欲と向上心が高い人
2. 冷静な判断力と決断力を持つ人
3. 優れたコミュニケーション能力を持つ人
フライトナースに必要な資質
フライトナースに向いていない人
一方で、以下のような特性を持つ人はフライトナースに向いていない可能性があります。
- 臨機応変な対応が苦手な人
- 高いストレス環境に弱い人
- 高所恐怖症や乗り物酔いがある人
- チームワークを苦手とする人
フライトナース経験後のキャリアアップ
フライトナースとしての経験は、看護師としてのキャリアにおいて大きな強みとなります。高度な判断力や技術、危機管理能力は、様々な場面で活かすことができます。フライトナース経験後のキャリアパスとしては、主に以下のような選択肢があります。
1. 救急看護のスペシャリストへ
2. 管理職への道
3. 教育者としての活躍
4. 災害医療の専門家
フライトナース経験後のキャリアパスイメージ
フライトナースの求人情報
フライトナースの求人は一般的な看護師求人サイトには掲載されていないことが多いです。これは、フライトナースが病院内部から選抜・任命されることが一般的だからです。フライトナースを目指す場合は、まずドクターヘリを運用している病院の救命救急センターに就職し、そこで経験を積みながらフライトナースへの道を模索するのが現実的なアプローチです。
ただし、稀にドクターヘリ運用病院が「フライトナース候補者」として経験者を募集することもあります。このような求人は、病院の公式サイトや看護協会の求人情報などで見つけることができるでしょう。
フライトナースを目指す人へのアドバイス
- ステップ1:ドクターヘリ配備病院の救命救急センターへの就職を目指す
- ステップ2:救急看護の経験を積みながら、必要な資格を計画的に取得する
- ステップ3:上司や先輩フライトナースに自分の目標を伝え、アドバイスを求める
- ステップ4:救急看護認定看護師などの専門資格取得も視野に入れる
- ステップ5:フライトナース選考の機会があれば積極的に挑戦する
フライトナースは救命医療の最前線で活躍するやりがいのある職種ですが、その分、責任も重大です。患者の命を救えなかった時の無力感や、「もっとできることがあったのではないか」という自問自答に向き合う覚悟も必要です。しかし、その反面、自分の判断と技術が直接患者の命を救うことにつながった時の充実感は、他の看護分野では得難い貴重な経験となるでしょう。
フライトナースへの第一歩を踏み出そう
フライトナースを目指すなら、まずは救急看護の経験を積むことから始めましょう。必要な資格取得と並行して、ドクターヘリ配備病院での勤務を視野に入れた就職活動を行うことをお勧めします。
まとめ
フライトナースは、ドクターヘリに搭乗して救急現場に急行し、最善の救命医療を提供する看護のスペシャリストです。一般の看護師とは異なり、限られた医療資源と時間の中で、高度な判断と技術を駆使して患者の命を救う重要な役割を担っています。
フライトナースになるためには以下の条件を満たす必要があります。
- 看護師経験5年以上、救急看護経験3年以上
- ACLSプロバイダーおよびJPTECプロバイダーの資格取得
- 日本航空医療学会主催のドクターヘリ講習会受講
- 第三級陸上特殊無線技士の資格(多くの病院で必須)
フライトナースの年収は一般看護師より30~70万円程度高く、危険搭乗手当や特殊勤務手当などが加算されます。また、フライトナースとしての経験は、将来的に救急看護のスペシャリストや管理職、教育者としてのキャリアにつながる貴重な財産となります。
現在、日本全国で43都府県53病院にドクターヘリが配備されており、これらの病院でフライトナースとして活躍することができます。フライトナースを目指す場合は、まずこれらの病院の救命救急センターでの勤務経験を積むことが第一歩となるでしょう。
高いストレス環境での業務や重い責任を伴う仕事ですが、その分、患者の命を直接救うやりがいと充実感を得られる、看護師としての究極のキャリアの一つと言えるでしょう。
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