新築マンションを検討の際に、特に戸建との比較をされる場合、耐震等級が気になるかと思います。
ここ広島の新築分譲マンションはすべて耐震等級1です。
現在販売中の物件はすべて耐震等級1になっています。
個人的には耐震等級1で、何ら問題ないと思っています。
耐震等級2、あるいは3にする経済的、または強度的なメリットは非常に薄いと感じています。
新築分譲マンション-耐震等級1が多い理由とは?
地震大国である日本において、住宅の耐震性能は非常に重要な要素です。しかし、新築分譲マンションの約9割が「耐震等級1」であることをご存知でしょうか。一方で、戸建て住宅では約8割が「耐震等級3」を取得しています。なぜこのような違いが生まれるのか、その理由を詳しく解説していきます。
耐震等級とは何か?

Q:耐震等級とは何ですか?

A:建物の耐震性能を1〜3の等級で評価する指標です。等級1は建築基準法の最低基準、等級2・3はそれ以上の耐震性能を持ちます。
耐震等級とは、2000年に施行された「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」で定められた、建物の耐震性能を示す指標です。住宅性能表示制度の一部として、建物がどの程度の地震に耐えられるかを1から3の等級で評価します。
住宅性能表示制度は、消費者が住宅の性能を比較検討し、安心して住宅を選べるようにするために導入されました。この制度は、建物の構造の安定、火災時の安全性、省エネルギー性など、様々な性能について評価基準を設けています。耐震等級は、その中でも特に重要な項目の一つです。
建築基準法では、建物が最低限満たすべき耐震性能が定められていますが、耐震等級1はこの建築基準法と同レベルの耐震性能を持つことを意味します。つまり、耐震等級2や3は、建築基準法よりも高い耐震性能を持つことになります。重要なのは、耐震等級1でも十分な安全性を確保していることです。
耐震等級と耐震性能について
耐震等級 | 耐震性能 | 内容 | 地震保険割引率 |
---|---|---|---|
等級1 | 建築基準法の最低基準 | 震度6強〜7程度の地震で倒壊・崩壊しない | 10% |
等級2 | 等級1の1.25倍 | 等級1の1.25倍の地震力に耐える | 30% |
等級3 | 等級1の1.5倍 | 等級1の1.5倍の地震力に耐える | 50% |
マンションと戸建ての耐震等級分布の違い

Q:マンションと戸建ての耐震等級にはどんな違いがありますか?

A:マンションの約9割が耐震等級1なのに対し、戸建て住宅の約8割が耐震等級3を取得しています。
国土交通省の調査データ(2013年度)によると、マンションと戸建て住宅では耐震等級の分布に大きな違いがあります。この違いは、建築基準法の適用や構造設計の自由度、コストなどの様々な要因によって生まれます。
マンションは、多くの人が共同で生活する集合住宅であるため、構造の安定性や安全性が特に重要視されます。そのため、建築基準法に基づいて一定の耐震性能を確保することが義務付けられています。一方、戸建て住宅は、比較的自由な設計が可能であり、個々の住宅の状況に合わせて耐震性能を向上させることができます。
マンション vs 戸建て住宅の耐震等級分布
マンションが耐震等級1を選ぶ理由①:経済的要因とコスト構造

Q:なぜマンションは耐震等級を上げないのですか?(コスト面)

A:耐震等級3にすると建築費が10-20%増加し、100戸マンションで2-4億円のコスト増となります。これは1戸あたり200-400万円の価格上昇に直結するためです。
マンション開発において、耐震等級を上げることは建築コストの大幅な増加を意味します。これは単純な材料費の増加だけでなく、設計から施工、検査まで全工程にわたってコストが増大するためです。
具体的には、耐震等級2にするだけで建築費が5-10%増加し、耐震等級3では10-20%の増加が見込まれます。100戸のマンションで総工費が20億円の場合、耐震等級3にすると2-4億円のコスト増となり、これは1戸あたり200-400万円の価格上昇に直結します。
コスト増加の内訳
鉄筋量20-30%増、コンクリート強度向上
構造計算の複雑化、追加検討時間
施工期間の延長(1-2ヶ月)
住宅性能評価機関への費用
専門技術者の確保コスト
工期延長による借入金利負担
さらに重要なのは、マンション市場における価格競争の激しさです。同じエリアで類似物件が複数供給される場合、数百万円の価格差は購入者の選択に大きく影響します。デベロッパーは、耐震性能よりも立地や設備、価格競争力を重視する傾向があります。
マンションが耐震等級1を選ぶ理由②:居住性と設計の制約

Q:耐震等級を上げると住み心地に影響しますか?

A:はい。柱や壁が太くなることで、70㎡の住戸で約2-3㎡の有効面積が減少し、採光・通風性能も低下する可能性があります。
耐震等級を上げるための構造強化は、居住空間に直接的な影響を与えます。特にマンションでは、限られた専有面積の中で最大限の居住性を確保することが求められるため、構造部材の増大は深刻な問題となります。
例えば、柱の断面を20%拡大すると、70㎡の住戸で約2-3㎡の有効面積が減少します。これは畳約1.5-2枚分に相当し、リビングや寝室の使い勝手に大きく影響します。また、壁厚の増加により、窓の設置位置や大きさが制限され、採光・通風性能が低下する可能性があります。
これらの制約は、マンションの商品力に直接影響します。購入者の多くは、耐震性能よりも居住空間の広さや使いやすさ、明るさを重視する傾向があります。特に都市部の高額物件では、1㎡あたりの単価が高いため、有効面積の減少は大きなデメリットとなります。
マンションが耐震等級1を選ぶ理由③:市場ニーズと消費者意識の現実

Q:購入者は耐震性能を重視していますか?

A:耐震性能を最重要視する購入者は約15%のみです。多くの人は立地・価格・間取り・設備を優先し、「建築基準法を満たしていれば十分」と考えています。
マンション購入者の意識調査によると、耐震性能を最重要視する購入者は全体の約15%に留まります。多くの購入者は、立地(駅距離、周辺環境)、価格、間取り、設備を優先し、耐震等級については「建築基準法を満たしていれば十分」と考える傾向があります。
この背景には、日本の建築基準法に対する信頼感があります。1981年の新耐震基準導入以降、基準を満たした建物の倒壊事例は極めて少なく、消費者の多くは「法的基準=十分な安全性」と認識しています。また、マンションは戸建てと比較して構造的に堅牢であるという印象も、耐震等級への関心を低下させています。
マンション購入者の優先順位(調査データ)
さらに、耐震等級の認知度自体が低いことも要因の一つです。住宅性能表示制度や耐震等級について正確に理解している消費者は全体の約30%程度で、多くの購入者は「新築だから安全」「大手デベロッパーだから大丈夫」という漠然とした安心感に依存しています。
マンションが耐震等級1を選ぶ理由④:法規制の枠組みと業界慣行

Q:法的には耐震等級1で問題ないのですか?

A:はい。建築基準法で十分な安全性が確保されており、住宅性能表示制度は任意です。業界全体で耐震等級1が標準となっています。
建築基準法では、マンションのような共同住宅に対して厳格な構造基準を設けています。特に中高層建築物では、構造計算適合性判定という第三者機関による厳しい審査が義務付けられており、この基準をクリアすることで十分な安全性が確保されるとされています。
また、住宅性能表示制度の利用は任意であり、取得しなくても建築・販売に支障はありません。むしろ、性能評価の取得には時間とコストがかかるため、多くのデベロッパーは「法的義務を満たせば十分」という判断をしています。これは業界全体の慣行となっており、耐震等級1が標準的な選択肢として定着しています。
建築基準法 vs 住宅性能表示制度
建築基準法(義務)
住宅性能表示制度(任意)
業界慣行として、大手デベロッパーでも耐震等級1を標準とするケースが多く、これが市場全体のスタンダードとなっています。例外的に耐震等級2・3を取得するのは、ブランド戦略の一環として差別化を図る場合や、特定の顧客層をターゲットとする高級物件に限られています。
マンションが耐震等級1を選ぶ理由⑤:技術的制約と設計の複雑さ

Q:技術的な問題はありますか?

A:マンションの構造設計は複雑で、耐震等級を上げると設計期間が2-3ヶ月延長し、施工段階でも高度な品質管理が必要になります。
マンションの構造設計は、戸建て住宅と比較して格段に複雑です。特に耐震等級2・3を目指す場合、単純に部材を大きくするだけでは解決できない技術的課題が多数発生します。例えば、上層階と下層階で異なる構造要求、設備配管との取り合い、施工性の確保などです。
また、マンションでは構造設計者、設備設計者、意匠設計者の密接な連携が必要で、耐震等級を上げることで設計期間が大幅に延長される可能性があります。これは事業スケジュールに直接影響し、金利負担や機会損失のリスクを増大させます。
マンション設計の技術的課題
構造設計の複雑化
設計期間への影響
さらに、耐震等級の高い建物では、施工段階での品質管理がより重要になります。配筋検査、コンクリート強度管理、接合部の施工精度など、すべての工程で高い技術力が要求され、これが施工コストの増加と工期延長につながります。
まとめ

Q:結論として、耐震等級1のマンションは安全ですか?

A:はい。耐震等級1でも建築基準法の厳格な基準をクリアしており、震度6強〜7程度の地震に対して十分な安全性を確保しています。購入時は耐震等級以外の要素も含めて総合的に判断することが重要です。
新築分譲マンションで耐震等級1が圧倒的多数を占める理由は、単一の要因ではなく、複数の構造的要因が複合的に作用した結果です。
経済的・市場的要因
• 建築コスト10-20%増加の影響
• 価格競争力の重要性
• 消費者の優先順位(立地 > 価格 > 耐震性)
• 業界慣行としての定着
技術的・制度的要因
• 居住性への直接的影響
• 設計・施工の複雑化
• 建築基準法による十分な安全確保
• 住宅性能表示制度の任意性
重要なのは、耐震等級1であっても建築基準法の厳格な基準をクリアしており、震度6強から7程度の地震に対して十分な安全性を確保していることです。マンション購入時は、耐震等級だけでなく、建築年、施工会社の実績、立地条件なども含めて総合的に判断することが重要です。
今後、消費者の意識変化や制度改正により、この状況が変化する可能性もありますが、現在の市場構造では耐震等級1が合理的選択として定着していると言えるでしょう。
参考資料
• 国土交通省「住宅性能表示制度の利用状況について」(2013年度)
• 建築基準法施行令
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