「心理的瑕疵」がある物件、
中古マンション市場には、非常に少ないですが、一定数流通しています。
20年ほど前までは、ある程度リーズナブルでしたが、現在ではさほどディスカウントされているようには感じません。
時代の流れ、考え方の変化でしょうか。最近の若いお客様は「安ければ良い!」という方もいらっしゃいます。
マンション売買における心理的瑕疵の告知義務
不動産取引において、物件に関する重要な情報を買主や借主に伝える「告知義務」は、トラブルを防ぐ上で非常に重要です。特に「心理的瑕疵(しんりてきかし)」と呼ばれる、物件内での人の死亡などに関する情報は、取引の判断に大きな影響を与えるため、適切な告知が求められます。
本記事では、国土交通省の「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」に基づき、具体的な事例を交えながら、告知すべき場合と告知義務がない場合について詳しく解説します。
告知すべき場合の具体例
1. 殺人事件が発生した場合
【具体例1】マンションの一室で住人が何者かに刺殺された事件が発生。犯人は逮捕され、事件から5年が経過している。
告知義務あり:殺人事件は社会的影響が大きく、買主・借主の判断に重要な影響を与えるため、経過年数に関わらず告知が必要です。売買契約の場合は無期限に告知義務があり、賃貸契約の場合でも事件の重大性から3年を超えても告知が必要なケースが多いです。
【具体例2】マンションの一室で10年前に強盗殺人事件が発生。その後、複数の入居者が入れ替わり、現在は事件のことを知る住民もほとんどいない。
告知義務あり:売買契約の場合は経過年数に関わらず告知が必要です。賃貸契約の場合、3年を経過していますが、殺人という事案の重大性から、周辺住民の認知度や社会的影響を考慮して判断する必要があります。
2. 自殺があった場合
【具体例3】マンションの一室で2年前に入居者が縊死(いし)自殺。その後、特殊清掃を行い、別の入居者が1年間住んだ後に退去した。
告知義務あり:自殺から3年以内であるため、賃貸・売買ともに告知が必要です。特に売買の場合は、経過年数に関わらず告知義務があります。
【具体例4】マンションのベランダから4年前に入居者が飛び降り自殺。その後、2人の入居者が問題なく居住した。
告知義務あり:売買契約の場合は経過年数に関わらず告知が必要です。賃貸契約の場合は、3年を経過し、かつ複数の入居者が問題なく居住した実績があるため、原則として告知義務はありません。ただし、買主・借主から特別に質問された場合は正確に回答する必要があります。
3. 事故死が発生した場合
【具体例5】マンションの一室で1年前に火災が発生し、入居者が死亡。その後、全面的にリフォームを行った。
告知義務あり:火災による死亡は日常生活における不慮の事故とは言えず、事故死として告知が必要です。特に発生から3年以内であるため、賃貸・売買ともに告知義務があります。
【具体例6】マンションの一室で2年前に入居者がガス漏れによる一酸化炭素中毒で死亡。設備の不具合が原因だったため、全戸の設備点検と修理が行われた。
告知義務あり:ガス漏れによる死亡は設備の不具合という特殊な原因によるものであり、日常生活における不慮の事故とは言えないため、告知が必要です。特に発生から3年以内であるため、賃貸・売買ともに告知義務があります。
4. 特殊清掃が必要だった自然死の場合
【具体例7】マンションの一室で8ヶ月前に高齢の入居者が孤独死。発見が1週間後となり、室内に強い臭気が発生したため特殊清掃を実施した。
告知義務あり:自然死であっても、長期間放置されて特殊清掃が必要になった場合は告知義務があります。特に発生から3年以内であるため、賃貸・売買ともに告知が必要です。
【具体例8】マンションの一室で4年前に入居者が病死。発見が遅れて床や壁に体液が染み込み、特殊清掃とフローリングの張替えを行った。その後、2人の入居者が問題なく居住した。
告知義務あり:売買契約の場合は経過年数に関わらず告知が必要です。賃貸契約の場合は、3年を経過し、かつ複数の入居者が問題なく居住した実績があるため、原則として告知義務はありません。
告知義務がない場合の具体例
1. 自然死の場合(特殊清掃不要)
【具体例9】マンションの一室で高齢の入居者が持病の悪化により病院で死亡。その後、遺族が部屋を片付け、通常の清掃のみで原状回復した。
告知義務なし:病院での死亡であり、物件内での死亡ではないため、告知義務はありません。
【具体例10】マンションの一室で高齢の入居者が老衰で亡くなった。家族と同居していたため、すぐに発見され、特殊清掃は不要だった。
告知義務なし:老衰による自然死であり、すぐに発見されて特殊清掃も不要だったため、告知義務はありません。自然死は「自宅における死因割合のうち、老衰や病死による死亡が9割を占める一般的なもの」とされており、そのような死が発生することは当然に予想されるものとして、告知は不要とされています。
2. 日常生活での不慮の事故の場合
【具体例11】マンションの一室で高齢の入居者が浴室で転倒し、頭を打って死亡。すぐに発見され、通常の清掃のみで原状回復した。
告知義務なし:浴室での転倒は日常生活における不慮の事故であり、すぐに発見されて特殊清掃も不要だったため、告知義務はありません。
【具体例12】マンションの一室で入居者が食事中に誤嚥(ごえん)し、窒息死。家族がすぐに発見し、特殊清掃は不要だった。
告知義務なし:食事中の誤嚥による窒息死は日常生活における不慮の事故であり、すぐに発見されて特殊清掃も不要だったため、告知義務はありません。
3. 隣接住戸での死亡の場合
【具体例13】売買・賃貸の対象となるマンションの隣の部屋で1年前に自殺があった。
告知義務なし:隣接住戸での死亡は、原則として告知義務の対象外です。ただし、買主・借主から特別に質問された場合は正確に回答する必要があります。
【具体例14】売買・賃貸の対象となるマンションの上の階で6ヶ月前に殺人事件があった。
告知義務なし:対象住戸ではない別の住戸での死亡は、原則として告知義務の対象外です。ただし、事件の社会的影響が大きく、マンション全体の評価に影響を与える場合は、告知が必要なケースもあります。
4. 共用部分での死亡の場合
【具体例15】マンションのエレベーター内で2年前に入居者が心臓発作で死亡。
告知義務なし:日常的に使用する共用部分での自然死は、原則として告知義務の対象外です。
【具体例16】マンションの屋上(通常は立入禁止区域)で3年前に自殺があった。
告知義務なし:日常生活において通常使用しない共用部分での死亡は、原則として告知義務の対象外です。ただし、事件の社会的影響が大きい場合は、告知が必要なケースもあります。
告知義務に関する判例
告知義務違反と認められた判例
【判例1】 東京地裁平成20年4月28日判決
【事案】購入した賃貸マンションで、売買契約の2年1ヶ月前に本件建物で飛び降り自殺があった。
【判決】慰謝料名目の損害賠償を求め、買主の損害額2500万円が認められた。
【理由】収益物件であっても経済的不利益を生じる可能性があることから、売主には本件事件を告知しなかった義務違反がある。
【判例2】 東京地裁平成22年3月8日判決
【事案】マンションの一室を購入したが、約3年半前に前所有者が自殺していたことが判明。
【判決】契約解除と損害賠償が認められた。
【理由】自殺から3年以上経過していても、売買契約においては告知義務があると判断された。
告知義務違反と認められなかった判例
【判例3】仙台高裁平成8年3月5日判決
【事案】競売された住宅の共有者が、売却許可決定2年半前に隣接する山林で自殺した。
【判決】売却許可の取消申立てが棄却された。
【理由】自殺が発生した場所は本件競売物件内ではないため、合理性があるとは認められない。
【判例4】東京地裁平成18年12月6日判決
【事案】賃貸マンションの一室で前入居者が自然死していたことが判明。
【判決】告知義務違反は認められなかった。
【理由】自然死は通常予想されるものであり、心理的瑕疵に該当しないと判断された。
心理的瑕疵とは?読みや意味は?
心理的瑕疵(しんりてきかし)とは、不動産取引の対象となる物件における、過去に生じた「人の死」などが該当します。物件の物理的な瑕疵(欠陥や不具合)ではなく、借主・買主に何らかの「心理的な」抵抗が生じる恐れがある要素を指します。
心理的瑕疵の具体例
- 自殺・他殺、事故死、孤独死
- 付近の墓地、嫌悪を感じる施設の立地
- 近所に居住する反社会的勢力(暴力団)の存在
このように心理的な側面において物件の評価に影響を及ぼす可能性がある瑕疵を心理的瑕疵といいます。物件の購入や入居を考える人にとって重要な判断材料であり、契約相手に適切な情報を与えるため、心理的瑕疵物件の内容を説明する告知義務があります。
心理的瑕疵の告知義務に関するガイドライン
2021年10月8日に国土交通省は「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を公表しました。このガイドラインは、人が亡くなった物件の過去の取引について、裁判例や具体的な実務内容を整理しまとめたものです。
ガイドライン策定の背景には、以下のような課題がありました。
- 従来まで取引対象の不動産で生じた「人の死」について、宅建業者による適切な調査や告知にかかわる明確な基準がなかった
- 不動産取引の円滑な流通や安心な取引を担保することが難しかった
- 取引業者によって対応が異なっていた
- 単身高齢者の賃貸物件への入居が認められにくいという社会問題
告知しなければならないケースは?
ガイドラインでは、「宅地建物取引業者は、人の死に関する事案が、取引の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすと考えられる場合には、これを告げなければならない」という原則を示しています。具体的に告知義務がある事案は以下の通りです。
告知が必要なケース | 説明 |
---|---|
他殺(殺人事件) | 物件内で殺人事件が発生した場合 |
自殺 | 物件内で自殺があった場合 |
事故死 | 日常生活における不慮の事故といえないもの |
その他原因が不明な死 | 死因が特定できない場合 |
特殊清掃が行われた自然死 | 自然死や不慮の事故でも特殊清掃が行われた場合 |
自然死や不慮の死についての告知義務は無い?
ガイドラインでは、以下のケースは告知義務が不要とされています。
告知義務が不要なケース
- 対象不動産で発生した自然死・日常生活の中での不慮の死(転倒事故、誤嚥など)
※ただし、特殊清掃等が行われた場合については告知が必要 - 対象不動産の隣接住戸、あるいは日常生活において通常使用しない集合住宅の共用部分で発生した「1)以外の死」と、特殊清掃等が行われた「1)の死」
令和元年 自宅での死亡原因の割合出典:人口動態統計(令和元年)
心理的瑕疵における告知義務の期間
心理的瑕疵における告知義務の期間は、賃貸と売買で異なります。
賃貸の場合
事案発生から3年間が経過した後は告知の必要はない
売買の場合
経過期間の目安はなく、告知する必要がある
ただし、以下の場合は3年が経過しても告知する必要があります。
- 物件において発生した死が、事件性や周知性、社会に与えた影響などが高いものであった場合
- 入居を検討する相手から、心理的瑕疵に該当する事案の有無を問われた場合
売買契約の場合、賃貸借契約と比較して、買主が直ちにこれを他に転売して転居することが困難なこと、取引金額が大きく紛争の解決にも多大な費用が必要となること等を踏まえると、買主は多大な損害を被ることとなるため、経過した期間によらず告知が必要とされています。
告知すべき場合のチェックリスト
□ 物件内で殺人事件が発生した
□ 物件内で自殺があった
□ 物件内で日常生活における不慮の事故とは言えない事故死があった
□ 物件内で原因不明の死亡があった
□ 自然死でも長期間放置され、特殊清掃が必要だった
□ 事案発生から3年以内(賃貸の場合)
□ 売買契約である(期間に関わらず告知必要)
□ 社会的影響の大きい事案である
□ 買主・借主から特別に質問された
告知義務がない場合のチェックリスト
□ 物件内での自然死(老衰、病死など)で特殊清掃が不要だった
□ 物件内での日常生活における不慮の事故(転倒、誤嚥など)で特殊清掃が不要だった
□ 隣接住戸での死亡(ただし社会的影響が大きい場合は例外あり)
□ 日常生活において通常使用しない共用部分での死亡
□ 賃貸契約で事案発生から3年以上経過している(ただし社会的影響が大きい場合は例外あり)
心理的瑕疵の告知義務は、買主・借主の判断に重要な影響を与える情報を適切に提供するためのものです。告知義務を怠ると、契約不適合責任や宅地建物取引業法違反として、損害賠償請求や契約解除を求められる可能性があります。適切な告知を行い、トラブルのない円滑な不動産取引を心がけましょう。
私の結論
心理的瑕疵がある物件。
まずもって、ファミリーの方にはおすすめしません。ですが、過去にはファミリーの方にもご契約いただいたことが複数件あります。
事件性が強い物件は控えた方が良いでしょう。ゆるい(?)心理的瑕疵物件なら、相場より2~3割程度安ければアリなのではないでしょうか。
また、自然死、不慮の死で特殊清掃が必要でない場合は、告知義務はありませんが、善良な不動産業者なら教えてくれるはずです。お客様サイドから質問し、何らかのエビデンスを残した方が良いでしょう。
参考
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