【アストラムライン延伸】不動産は上がる?下がる?
広島市の中心部と北西部を結ぶ新交通システム「アストラムライン」。1994年の開業から約30年が経過し、現在は本通駅から広域公園前駅までの18.4kmを22駅で結んでいます。この路線が西広島駅まで延伸される計画が進行中ですが、当初の予定より大幅に遅れ、2036年度の開業を目指すことになりました。この延伸計画は広島市の都市構造や不動産市場にどのような影響を与えるのでしょうか。今回は、アストラムラインの延伸問題と不動産市場への影響について詳しく解説します。
アストラムライン延伸計画の概要と現状

Q: アストラムライン延伸はどんな計画なの?

A: 広域公園前駅から西広島駅まで7.1kmを単線で延伸し、6駅を新設する計画です。
アストラムライン延長計画の詳細
項目 | 詳細 |
---|---|
路線名 | 西風新都線 |
伸長距離 | 7.1km |
新設駅数 | 6駅(すべて仮称) |
構造 | 高架部5.0km、トンネル部1.7km、土工部0.4km |
軌跡 | 単線(駅部で行き違い可能) |
開業予定 | 2036年度 |
アストラムラインの延伸計画(西風新都線)は、現在の終点である広域公園前駅(安佐南区)からJR西広島駅(西区)までの約7.1kmを結ぶものです。この区間には五月が丘1駅、五月が丘2駅、石内東駅、己斐上駅、己斐中駅、西広島駅(すべて仮称)の6駅が新設される予定です。延伸区間は五月が丘団地や石内東地区(ジ アウトレット広島)、己斐地区を経由し、高架部約5.0km、トンネル部約1.7km、土工部約0.4kmで構成されます。
この計画は1999年に基本構想が策定されましたが、その後様々な検討や見直しを経て、2015年に事業化が決定されました。当初は2030年前後の開業を目指していましたが、新型コロナウイルス感染症の影響や平成30年7月豪雨災害による調査の遅れなどにより、開業時期は2036年度へと6年延期されています。
事業費も当初の約570億円から約760億円へと約190億円増加しています。これは建設資材や労務費の高騰が主な要因です。また、延伸区間の利用者数予測も当初の1日約1万5200人から約9100人へと下方修正されました。これは運行速度の見直し(時速30kmから27kmへ)により所要時間が延びたことなどが影響しています。
参考リンク:広島市公式サイト – アストラムライン延伸計画
広島市は2027年度から用地買収や工事に着手し、2036年度の延伸開業を目指すとしていますが、SNSなどでは「遅すぎる」「需要はあるのか」といった疑問の声も上がっています。一方で、「西広島駅周辺が便利になる」「バスや自家用車でなくアウトレットに行ける」など期待の声もあります。
延伸による交通アクセス改善と地域活性化の可能性

Q: 延伸で交通はどう変わるの?

A: 五月が丘から西広島駅までの所要時間が38分から13分に短縮され、定時性も向上します。
アストラムラインの延伸により、沿線地域の交通アクセスは大幅に改善されます。例えば、五月が丘地区から西広島駅までは、現在は路線バスを利用すると約38分かかりますが、アストラムラインが開通すれば約13分で到着できるようになります。これは約25分の時間短縮となり、通勤・通学や買い物などの日常生活の利便性が大きく向上することを意味します。
また、アストラムラインは定時性が高く、道路の渋滞に左右されないため、時間の正確な移動が可能になります。現在のバス路線は1時間に1〜2本程度の運行ですが、アストラムラインは本数も増え、より頻繁な移動が可能になります。
延伸区間の終点となるJR西広島駅は、JR山陽本線が乗り入れており、広島電鉄の西広島駅も近接しています。アストラムラインが接続することで、広島市内の公共交通ネットワークがより充実し、環状型の交通網が形成されます。これにより、広島市中心部(デルタ地区)と西風新都地区の間の移動がスムーズになり、人やモノ、情報の流れが活性化することが期待されています。
石内東地区には中四国最大規模のアウトレットモール「ジ アウトレット広島」があり、新設される石内東駅はこの商業施設の敷地内に設置される予定です。これにより、自家用車やバスに頼らずにアウトレットへアクセスできるようになり、来場者の増加や周辺地域の活性化につながる可能性があります。
広島市は延伸による整備効果として、交通結節点へのアクセス性向上、移動時間の短縮と定時性の確保、地域活性化、西風新都の開発促進、西広島駅周辺の都市機能集積などを挙げています。特に西広島駅周辺は「西の玄関口」として位置づけられ、駅前再開発と合わせてポテンシャルが高まることが期待されています。
延長による主な効果
交通利便性の向上
- 移動時間の大幅短縮(最大25分短縮)
- 定時性の確保(渋滞の影響なし)
- 通知の増加
- JR・広電との接続強化
地域活性化
- アウトレットモールへの直接アクセス
- 五月が丘団地の適正性向上
- 西広島駅周辺の開発促進
- 環状型交通ネットワークの形成
西広島駅南で44階建てタワマン計画 【己斐にタワーマンション】
不動産市場への影響と地価動向の分析

Q: 延伸は不動産価格にどう影響するの?

A: アストラムライン沿線では地価上昇が見られ、延伸区間でも同様の効果が期待されています。
アストラムラインの延伸計画は、沿線地域の不動産市場に大きな影響を与えると予想されます。実際、現在のアストラムライン沿線では、開業以降に顕著な地価上昇が見られています。特に安佐南区では、過去16年間(リーマンショック時の平成20年から令和6年まで)で地価が約62%上昇しています。これは広島市の他の区と比較して突出した上昇率です。
例えば、安佐南区中筋1丁目では、坪単価が約56万円から約91万円へと62%上昇しています。一方、他の区では微増微減にとどまっており、安佐北区口田南3丁目では約32万円から約28万円、安芸区船越南3丁目では約32万円から約27万円、東区馬木3丁目では約22万円から約16万円、西区井口4丁目では約28万円から約31万円、佐伯区美鈴が丘南4丁目では約29万円から約27万円と、大きな変動は見られません。
参考リンク:国土交通省 地価公示・都道府県地価調査
この地価上昇の背景には、アストラムラインによる交通利便性の向上があります。広島市が1991年度から1998年度にかけて行った調査によると、アストラムラインが乗り入れている安佐南区は、広島市の人口増加の6〜7割が集中しているという結果が出ています。実際、広島市の区別人口推移を見ると、安佐南区だけが130%を超える人口増加を示しており、他の区が100%前後で推移しているのとは対照的です。
このような過去の実績から、今回の延伸区間である佐伯区五月が丘地区や西区己斐地区でも、同様の地価上昇や人口増加が期待されています。特に五月が丘地区では、2つの駅が新設されることから、既に地価の上昇傾向が見られています。また、石内東地区のアウトレットモール周辺や、己斐上駅・己斐中駅が設置される地域でも、駅前の利便性向上による不動産価値の上昇が予想されます。
不動産業界では、「アストラムラインの延伸が確実な形で実現することで、初めて需要が高まり供給も出てくる」と分析しています。現時点では「延伸されたら」という想像の段階であり、本格的な不動産市場への影響はこれからと言えるでしょう。
西広島駅周辺の再開発と相乗効果

Q: 西広島駅周辺はどう変わるの?

A: 44階建て高層マンションや商業施設の建設など、大規模な再開発が計画されています。
アストラムラインの延伸計画と並行して、終点となるJR西広島駅周辺では大規模な再開発が進行しています。かつては防災の街として栄え、職人も多く交通の要所として賑わった西広島駅周辺ですが、次第に老朽化が進み、地元では長年再開発を望む声が上がっていました。
西広島駅周辺再開発計画
エリア | 開発内容 | 完成予定 | 予算 |
---|---|---|---|
駅南口西側 | 44階建て高層マンション・商業ビル | 2033年度 | 約2億8000万円(補助) |
駅北口 | 土地区画整理・幹線道路・駅前広場 | 未定 | 約9億2600万円 |
アストラム延伸 | 橋梁詳細設計等 | 2036年度 | 約6億6,700万円 |
約8年前から本格的に動き出した駅前の街づくりでは、駅南口の西側に44階建ての高層マンションや商業ビルを建設する計画が進められています。地元の権利者たちが市街地再開発の準備組合を作り、計画を推進しています。再開発エリアは現在、駐輪場や商店などが立ち並ぶ駅南口の西側で、広電の電停と宮島街道の間にある商店街は解体し、バス停を拡張する予定です。
この再開発の完成目標は2033年度で、広島市は新年度予算案に組合が実施する基本設計や測量などの補助としておよそ2億8000万円を計上しています。地元住民からは「商店街が発展して人が行き交う、美味しい食べ物がある道になってほしい」「便利になってもらえばありがたい」といった期待の声が聞かれます。
一方、西広島駅の北口も風景が一変しています。かつては民家が密集していた北口エリアでは、2022年度から建物の解体工事が始まり、現在は宅地造成が進んでいます。広島市は土地区画整理事業で幹線道路や駅前広場、公園などを整備する計画で、新年度予算に北口の区画整理におよそ9億2600万円を計上しています。
地元の不動産会社は「アストラムの完成と再開発を合わせるようなスタートが切れると、本当にいいスタートになる」と期待を寄せています。特に西広島駅が「西の玄関口」として大きな拠点となることで、西風新都とデルタ地区(広島市中心部)をつなぐ重要なポイントになると評価しています。
再開発による期待効果
- 駅前商業施設の充実による集客力向上
- 高層マンション建設による人口増加
- 交通結節点としての機能強化
- 周辺地域の不動産価値向上
- 「西の玄関口」としてのブランド化
- 新規事業者の普及促進
- 雇用の場の創出
- 地域経済の活性化
ただし、再開発で魅力ある街づくりができるかどうかが問われているとの指摘もあります。「乗り換える方々を引きつける集客施設がないと、乗降客数が多いだけでは発展につながらない」「様々な事業者の方々に出ていって商売しようと思っていただけるような器を用意することも欠かせない」との声もあります。
アストラムラインの延伸は11年後の2036年、西広島駅前の再開発はその3年前の2033年の完成を目指しており、両プロジェクトの相乗効果により、西広島駅周辺の街が大きく変わることが期待されています。
将来展望と課題:人口減少時代の公共交通投資

Q: 人口減少の中で延伸は成功するの?

A: 沿線人口の増加や地域活性化が期待される一方、採算性や投資効果に疑問の声もあります。
広島市を含む広島県は、深刻な人口減少に直面しています。総務省の人口動態調査によると、広島市の「転出超過」は神戸市に次ぐ全国ワースト2位となっています。このような状況の中、760億円という巨額の投資を要するアストラムラインの延伸計画には、様々な見方があります。
延伸の効果として期待されているのが、沿線人口の増加です。過去の実績から、アストラムラインが乗り入れる地域では人口増加が見られており、延伸区間でも同様の効果が期待されています。特に五月が丘団地や石内東地区、己斐地区などの鉄道空白地帯が公共交通で結ばれることで、広島市全体の交通アクセスが便利になり、沿線人口の増加や広島県外からの人口流入が促される可能性があります。
しかし、採算性については疑問の声も上がっています。延伸区間の利用者数予測は当初の1日約1万5200人から約9100人へと大幅に下方修正されました。広島市は「採算は確保できる」と強調していますが、営業利益の見通しは従来計画比7割減の2000万円とされています。また、事業費も約760億円と当初より3割以上増加しており、投資効果を疑問視する声もあります。
都市戦略の専門家からは「公共交通の延伸は住民らの利便性アップに意義がある」としつつも、「それ以外の価値付けが問われる」との指摘があります。「新線開業でエリア全体の価値を高めなければ延伸効果は限定的となるが、そのための戦略・計画が現状では見えていない」「市やエリアに関わる企業などは、エリアの将来像を明確に打ち出し、価値向上のための具体策を示すべきだ」との意見もあります。
不動産市場の観点からは、延伸計画が具体化することで沿線地域の不動産価値が上昇する可能性が高いと見られています。特に五月が丘地区では既に地価の上昇傾向が見られ、今後は己斐地区でも同様の動きが予想されます。「己斐上なんて、売りは多いけど、買いは少ない。なので、当然地価は低い。開通したらを考えると面白い」との見方もあります。
一方で、「不動産価格って、何ができるとかという想像できる状況では、価格に火はつきにくい」「そこに駅ができる。お店ができる。などなど確実な形としてできあがることより、初めて需要が高まり供給も出てくる」との分析もあります。つまり、延伸計画が確実に進み、開業が近づくにつれて、不動産市場への本格的な影響が現れてくると考えられます。
アストラムラインの延伸は、広島市の都市構造や不動産市場に大きな影響を与える可能性を秘めています。しかし、人口減少時代における巨額の公共交通投資として、その効果を最大化するためには、単なる交通インフラの整備にとどまらず、沿線地域の魅力向上や都市機能の集積など、総合的なまちづくりの視点が不可欠と言えるでしょう。
まとめ
アストラムラインの延伸計画は、2036年の開業まで長い道のりがありますが、既に沿線地域の不動産市場には変化の兆しが見られています。特に五月が丘地区や西広島駅周辺では、延伸を見据えた動きが活発化しており、今後の地価動向や開発計画に注目が集まっています。
人口減少時代における公共交通投資の在り方が問われる中、アストラムラインの延伸が広島市の都市構造や不動産市場にどのような影響を与えるのか、引き続き注視していく必要があるでしょう。不動産投資や住宅購入を検討している方は、この延伸計画の進捗状況や沿線地域の開発動向を踏まえた判断が重要となります。
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