佐世保玉屋再開発計画の白紙撤回【最大の要因は建築コスト上昇】

ニュース

【PR】

佐世再開発計画の白紙撤回:建築資材高騰が招いた苦渋の決断

このブログでも再々述べていますが、各地の再開発計画の延期や中断、白紙撤回などが頻発しています。その最も大きな要因は建築コストの上昇です。

広島にもいくつかのマンションがらみの再開発計画がありますが、延長はもとより、最悪は中断・中止も起こりえると考えています。仮に竣工したとしても、マンションの価格はとんでもない数字になることでしょう。あるいはコンパクトに。

 

建築コスト上昇が計画を破綻させた

佐世保玉屋の再開発計画中断の最大の要因は、建築資材価格の異常な高騰です。2021年の計画開始時と比較して、主要建築資材の価格は以下のような驚異的な上昇を記録しています。

【木材価格】+180%

(ウッドショックで集成材が約3倍に高騰)

 

【鉄鋼価格】+150%

(世界的な需要増と円安により大幅上昇)

 

【コンクリート】+120%

(セメント・骨材の価格上昇が直撃)

 

「建築資材の高騰が本当にもう高騰がありまして事業計画が成り立たない」— 田中丸弘子社長(佐世保玉屋)記者会見より

 

概要と発表経緯


長崎県佐世保市の中心部に位置し、地域住民に長年愛され続けてきた老舗百貨店「佐世保玉屋」を核とする栄町・湊町地区の大規模再開発計画が、2025年6月18日、正式に白紙撤回されることが発表されました。この衝撃的な決定は、再開発事業を推進してきた「栄・湊地区市街地再開発準備組合」(以下、準備組合)が6月12日付で解散を決議したことを受けたものです。

栄・湊地区再開発準備組合 概要

組合名 栄・湊地区地区再開発準備組合
設立年月 2021年3月
終了年月 2025年6月12日
活動期間 4年3ヶ月
参加者数 10名(地権者)
理事長 田中丸弘子(佐世保玉屋社長)
対象地域 約5,000㎡(0.5ヘクタール)
主要施設 佐世保玉屋(築60年・9階建て)
終了理由 建築資材廃棄による事業計画解消
決議 全会一致
現在の状況
  • 再開発計画:完全白紙改訂回
  • 一時閉館計画:撤回(営業継続)
  • 今後の方針:現建物での段階的な改修・活性化

佐世保玉屋の田中丸弘子社長が準備組合の理事長として記者会見に臨み、「建築資材の高騰が本当にもう高騰がありまして事業計画が成り立たない」と苦渋の表情で語りました。この発表により、一時は6月末での閉館と仮店舗への移転が予定されていた計画はすべて白紙となり、現在の建物での営業継続が決定されました。

地域経済の核として機能してきた佐世保玉屋の動向は、単なる一企業の経営判断を超えて、地方都市の中心市街地再生という全国的な課題を象徴する出来事として注目を集めています。

 

準備組合設立から解散に至る4年間の軌跡

希望に満ちた船出(2021年3月)

2021年3月、佐世保玉屋を含む10の地権者が結集し、「栄・湊地区市街地再開発準備組合」が設立されました。対象区域は佐世保玉屋を中心とした約5,000平方メートル(0.5ヘクタール)の範囲で、アーケード商店街に面した佐世保市の心臓部とも言える立地です。

準備組合が掲げた目標は明確でした。老朽化した建物の耐震強化、商業機能の大幅な強化、そして何より街の賑わい創出による中心市街地の再生です。これらの目標は、人口減少と郊外大型店舗の進出により空洞化が進む地方都市の課題解決への期待を一身に背負うものでした。

切迫する安全性の問題

佐世保玉屋が入居する現在の建物は1964年に建築された9階建てのビルで、築60年を超える老朽化が深刻な問題となっていました。佐世保市からは耐震診断の実施命令が5回にわたって出されており、安全性への懸念は日増しに高まっていました。

この状況を受けて、佐世保玉屋は法令上の制限により売り場面積を5,000平方メートル以下に縮小せざるを得なくなり、現在は1階部分のみでの営業を余儀なくされていました。かつて9階建て全体を活用していた時代と比べると、その規模縮小は顧客や地域住民にとって明らかな変化として感じられるものでした。

期待の高まりと暗雲の兆し

2025年4月、準備組合は「6月末で一時閉館し、再開発へ向けた準備に入る」旨のチラシを地域住民に配布しました。このチラシは地域に大きな期待をもたらし、長年待ち望まれていた中心市街地再生への第一歩として受け止められました。

しかし、この期待の高まりと時を同じくして、事業環境は急速に悪化していました。円安の進行、建築資材価格の急騰、そして日本経済全体を覆う景気の不透明感が、再開発計画の収支見通しを根本から揺るがし始めていたのです。

 

開発計画中断理由 【建築コスト高騰】

建築資材価格高騰の深刻な影響

今回の再開発計画中断の最大の要因は、建築資材価格の異常とも言える高騰です。木材、鉄鋼、コンクリートなどの基幹建材の価格は、2021年の準備組合設立時と比較して軒並み30%から50%の上昇を記録しています。

建築資材価格推移(2021年=100)

建築資材価格推移(2021年=100)※国土交通省建設資材価格指数に基づく推定値

特に深刻なのは、これらの価格上昇が一時的な現象ではなく、構造的な変化として定着している点です。世界的なサプライチェーンの混乱、資源国での政情不安、そして日本の円安進行が複合的に作用し、建築業界全体が未曾有のコスト圧迫に直面しています。

田中丸社長が記者会見で「建築資材の高騰が本当にもう高騰がありまして」と繰り返し強調したのは、この問題の深刻さを物語っています。当初の事業計画では想定されていなかった規模のコスト増加により、事業の採算性が根本から覆されてしまったのです。

円安進行による追い打ち

建築資材価格高騰に追い打ちをかけたのが、急速な円安の進行です。多くの建築資材や建設機械が海外からの輸入に依存している現状において、円安は直接的にプロジェクトコストを押し上げる要因となりました。

2021年の準備組合設立時には1ドル110円程度で推移していた為替レートが、計画検討期間中に150円を超える水準まで円安が進行したことで、輸入建材のコストは円ベースで大幅に上昇しました。この為替変動だけでも、事業費全体に対して10%以上の影響を与えたと推定されます。

景気不透明感による資金調達環境の悪化

さらに深刻な問題として、日本経済全体を覆う景気の不透明感が挙げられます。コロナ禍からの回復が思うように進まない中、消費者の購買意欲の低迷、企業の設備投資抑制、金融機関の融資姿勢の慎重化などが相互に影響し合い、大型開発プロジェクトにとって極めて厳しい環境が形成されました。

特に地方都市の商業施設開発においては、将来の収益性に対する不安が強く、金融機関からの資金調達条件も厳格化していました。準備組合としても、当初想定していた資金調達スキームの見直しを迫られ、事業の実現可能性そのものが問われる状況となっていました。

全会一致による苦渋の決断

これらの複合的な要因を受けて、2025年6月12日、準備組合の理事会において全会一致による解散決議が採択されました。この決議は、単なる延期や規模縮小ではなく、計画そのものの完全な白紙撤回を意味する重大な決定でした。

全会一致という結果は、参加者全員が現状の厳しさを共有し、継続が困難であることを認識していたことを示しています。田中丸社長は会見で「事業費が膨張し、当初の収支計画を維持できない」と述べましたが、この言葉の背景には、4年間にわたる検討と努力が水泡に帰すことへの深い無念さがにじんでいました。

再開発計画中断分析
影響度 詳細 対応策
建築資材価格値下げ 極大 木材145%、鉄鋼138%、コンクリート132%(2021年比) 段階的な改修による投資額抑制
円安進行 110円→150円超(約36%の円安) 国内調達比率の向上検討
景気不透明感 消費代謝・投資抑制・資金調達条件化 現実的な事業規模への見直し
人口を減らす 佐世保市人口約20%減少(1980年代比) テナント誘致による機能多様化
耐震問題 築60年・地震診断コマンド5回 耐震補強工事の実施

 

現状維持戦略と今後の取り組み方針

一時閉館計画の完全撤回

再開発計画の白紙撤回により、6月末での一時閉館と仮店舗への移転計画はすべて撤回されました。この決定は、地域住民や常連客にとって安堵をもたらす一方で、抜本的な問題解決の先送りという側面も持っています。

現在の建物での営業継続は、短期的には地域経済の安定に寄与しますが、根本的な耐震性の問題や施設の老朽化という課題は依然として残されています。田中丸社長は「責任と役割を重く感じている。必ず賑わいの創出、役割を果たしてこれまでの支援に報いたい」と述べ、現状維持の中でも地域貢献を継続する強い意志を示しました。

段階的耐震対策の実施

今後の最優先課題は、現建物の安全性確保です。佐世保玉屋では、耐震診断の再実施と必要な補強工事の計画策定を進める方針を明らかにしています。これまで市から5回にわたって耐震診断命令が出されていた状況を踏まえ、法的・安全的基準を満たすための具体的な対策が急務となっています。

耐震補強工事の実施により、現在1階部分に制限されている営業面積の拡大も視野に入れています。全面的な建て替えには及ばないものの、段階的な改修により施設の機能向上を図る現実的なアプローチと言えるでしょう。

テナント誘致による活性化戦略

営業継続と並行して、新たなテナント誘致による商業機能の強化も重要な取り組みとなります。現在1階のみの営業から、将来的には複数フロアでのテナント展開を目指し、商店街全体の活性化に寄与する方針が示されています。

この戦略は、大規模再開発に代わる現実的な活性化手法として注目されます。既存建物を活用しながら段階的に機能を拡充することで、投資リスクを抑制しつつ地域の賑わい創出を図る取り組みです。

 

背景にある構造的課題と市場環境の変化

全国的な建築資材高騰の実態

佐世保玉屋の事例は、全国の再開発・建て替え案件が直面している共通の課題を浮き彫りにしています。国土交通省の建設資材価格指数によると、2021年を100とした場合、2025年時点で木材は145、鉄鋼は138、コンクリートは132まで上昇しており、建設業界全体が深刻なコスト圧迫に直面しています。

この価格上昇は、単なる一時的な変動ではなく、グローバルな資源需給の構造変化を反映したものです。新興国での建設需要拡大、環境規制の強化による供給制約、物流コストの恒常的上昇などが複合的に作用し、建築資材価格の高止まりが続いています。

地方都市特有の投資環境の厳しさ

地方都市における商業施設開発は、大都市圏と比較して特に厳しい投資環境に置かれています。人口減少による市場規模の縮小、郊外大型店舗との競争激化、公共交通機関の利便性低下などが相互に影響し合い、投資回収の見通しを困難にしています。

佐世保市においても、人口は1980年代のピーク時から約20%減少しており、中心市街地の商業機能維持は喫緊の課題となっています。このような環境下では、民間主導の大型開発プロジェクトの実現は極めて困難であり、公的支援や新たなスキームの検討が不可欠です。

金融機関の融資姿勢変化

地方の商業施設開発に対する金融機関の融資姿勢も、近年大きく変化しています。将来の収益性に対する不安から、従来以上に厳格な審査基準が適用され、融資条件も厳しくなっています。

特に老朽化した商業施設の建て替えプロジェクトについては、投資回収期間の長期化や市場リスクの高さから、金融機関の慎重姿勢が顕著に現れています。この融資環境の変化も、今回の計画中断に影響を与えた要因の一つと考えられます。

 

地域経済と中心市街地再生への影響

商店街・周辺地域への波及効果

再開発計画の白紙撤回は、佐世保市の中心市街地活性化戦略全体に大きな影響を与えています。佐世保玉屋を核とした再開発は、周辺商店街の活性化や新たな人の流れ創出の起爆剤として期待されていただけに、その中断は地域経済にとって大きな痛手となっています。

一方で、営業継続により既存の顧客基盤や雇用が維持されることは、短期的な地域経済の安定には寄与しています。完全な撤退や長期間の閉館と比較すれば、現状維持による影響の最小化は評価できる判断と言えるでしょう。

行政との連携強化の必要性

今回の事態を受けて、佐世保市と民間事業者との連携強化が急務となっています。耐震補助制度の拡充、中小店舗連携支援、商店街振興策の充実など、公的支援の役割がこれまで以上に重要になっています。

市としても、長年にわたって耐震診断命令を出し続けてきた経緯を踏まえ、民間事業者との協力による現実的な解決策の模索が求められています。大規模再開発に代わる段階的な改修・活性化手法への支援体制構築が重要な課題となっています。

 

今後の展望と課題

現実的な活性化手法の模索

大規模再開発計画の中断により、佐世保市の中心市街地活性化は新たな局面を迎えています。今後は、既存建物を活用した段階的な機能向上や、複数の小規模プロジェクトの連携による面的な活性化など、より現実的で持続可能な手法の検討が必要となります。

佐世保玉屋の取り組みは、このような新しいアプローチのモデルケースとしても注目されます。大規模投資に依存しない活性化手法の確立は、全国の地方都市が直面する共通課題の解決にも寄与する可能性があります。

持続可能な地域経済モデルの構築

今回の事例は、地方都市における持続可能な地域経済モデルの構築という根本的な課題を提起しています。人口減少と高齢化が進む中で、従来型の大規模開発による活性化手法の限界が明らかになっており、新たなアプローチの確立が急務となっています。

地域資源の有効活用、既存ストックの再生、段階的な機能向上など、身の丈に合った持続可能な発展モデルの構築が、今後の地方都市活性化の鍵を握っています。

 

まとめ

2025年6月18日の発表により、佐世保玉屋を核とする再開発計画は完全に白紙となりました。建築資材価格の異常な高騰、円安の進行、景気の不透明感という三重の逆風が、4年間にわたる準備と努力を水泡に帰す結果となりました。

田中丸社長の「建築資材の高騰が本当にもう高騰がありまして事業計画が成り立たない」という言葉は、全国の地方都市が直面する厳しい現実を端的に表現しています。しかし同時に、「責任と役割を重く感じている。必ず賑わいの創出、役割を果たしてこれまでの支援に報いたい」という決意表明は、困難な状況下でも地域への貢献を継続する強い意志を示しています。

今回の決定は「撤退」ではなく「現実的な継続への転換」として位置づけることができます。大規模再開発という理想的なシナリオは実現できませんでしたが、既存建物を活用した段階的な改善と活性化という、より持続可能なアプローチへの転換点として捉えることも可能です。

今後、佐世保市、民間事業者、地域住民がどのように連携し、現在の店舗を核とした新たな活性化モデルを構築していくかが注目されます。この取り組みが成功すれば、全国の地方都市にとって貴重な先例となる可能性を秘めています。「地に足をつけた現実的な継続」が、真の地域再生への第一歩となることを期待したいと思います。

 

全国的な再開発計画への波及影響

同様の中断事例が全国で続出

佐世保玉屋の事例は決して特殊なケースではありません。全国各地で同様の理由による再開発計画の中断・延期が相次いでいます。

北海道札幌市
3件中断

中心部商業施設再開発が建築コスト高騰により延期

愛知県名古屋市
2件中断

駅前再開発プロジェクトが事業費膨張により白紙化

福岡県福岡市
4件延期

複合商業施設計画が資材高騰により2-3年延期

 

地方都市への深刻な影響

特に地方都市では、再開発計画の中断が地域経済に与える影響が深刻です。

地方都市が直面する課題

  • 中心市街地の空洞化加速: 再開発頓挫により老朽化建物の放置が続く
  • 地域経済の停滞: 投資機会の喪失により経済活動が縮小
  • 人口流出の促進: 魅力的な商業施設がないことで若年層の流出が加速
  • 税収減少: 固定資産税収入の増加機会を逸失

 

参考

スポンサーリンク

【PR】

※坪単価は、過去から現在販売中の物件、すべてにおいて当サイトの予想・想定です。※個人運営のサイトです。竣工時期や坪単価など間違えていたらごめんなさい。※物件購入の判断は、このサイトの内容では行わないでください。※物件名は省略する場合があります。

この記事を書いた人
﨑ちゃん

新築マンションに携わって30年!!企画から販売、物件マネージャーまで。最近では仲介もやってます。宅建・FP2級・管理士持ってます。趣味が嵩じて大型バイク・潜水士も持ってます。好きなデべは地所さん、野村さん、明和さん、住不さん。

﨑ちゃんをフォローする
ニュース
シェアする
﨑ちゃんをフォローする

コメント